清水伭市(98)

 フト、目が覚めた。炭鉱の労働で疲れたが、毎晩のように「日本へ帰ったら白い米の飯と豆腐の入ったみそ汁、たくあんを腹一杯食べたい」と言う戦友達は、空腹を抱えたまま静かに眠っている。どんな夢を見ているのだろう。

 いつ日本にかえしてくれるのだろうかと思っていたら眠れなくなったので外へ出た。白夜の頃なので明るい。日本は桜の頃だろう。澄んだ空気も凍るかと思うシベリアの日本人捕虜収容所である。

 月は皓々と輝いている。日本でもこの月を見ているだろうか。母と妹は生きているだろうか。戦争へ行った兄と弟は生きて帰っただろうか。消息を知りたいが、そのすべはない。戦友の一人は老いた母のことをしきりに心配していた。オオカミが遠くでほえている。近くにも二匹、いるようだ。

 日本の家族に私が生きていることを知らせたいが、それもできない。敗戦の無念を思いながら、寒さを忘れて立っていた。

(写真はイメージです)