阿南市の最西部、那賀川上・中流域に位置する加茂谷地区。構成する細野、大田井、大井、水井、十八女、深瀬、加茂、吉井、熊谷、楠根の10町が、那賀川両岸に連なる。ここ10年で移住者や新規就農者が増え、新たな飲食店などもできた。地域は活気に満ちている。

 

若杉山辰砂採掘遺跡 国史跡の活用法を検討

 水井町の水井橋から遍路道を30分ほど歩くと、2019年10月に国史跡に指定された若杉山辰砂(しんしゃ)採掘遺跡にたどり着く。ここでは弥生時代後期~古墳時代前期に赤色顔料「水銀朱(すいぎんしゅ)」の原料となった辰砂の採掘が行われた。辰砂の採掘方法が判明した全国唯一の遺跡として歴史的価値が高い。

辰砂の採掘坑跡内部。坑内では石ぎねや弥生土器のかけらが見つかった=水井町の若杉山辰砂採掘遺跡

 中国の辰州(現・湖南省)で産出されたのが名称の由来。火山活動で辰砂を含んだ地下水がマグマに熱せられて上昇し、岩石の割れ目などに入り込んで冷え固まってできる。辰砂から作られる水銀朱は赤の顔料(絵の具)として土器や木製品の着色に使われたほか、死者の顔やひつぎを彩るのにも使用された。

 若杉山辰砂採掘遺跡では、横穴状に岩盤を掘り進めた採掘坑跡と露天掘り跡が見つかっている。遍路道から採掘坑跡までは、何とか1人が通れる幅の急な山道を登っていく。坑内は奥行き12・7メートル。最も広い中央付近で幅3メートル、高さ1・3メートルと狭く、体を縮めて進まなければならない。周辺では、岩盤を掘ったり、原石を砕いて擦りつぶしたりするのに使われた石器の石ぎねも発見された。

 市は採掘遺跡の活用法などを考える委員会を昨年7月に設置。本年度末までに保存活用計画を策定する。今秋も昨年に続き、市民向けシンポジウムを開いて採掘遺跡への理解を深めるほか、来年度からは遊歩道やトイレの設置、体験学習エリアの設定といった整備計画を作る方針だ。

 

午尾の滝 景観維持に住民尽力

 深瀬町岡崎の深瀬八幡神社の境内を進むと、午尾(ごお)の滝が姿を現す。落差約30メートル。夏は水しぶきを上げて流れ、涼を感じさせる。冬場など水量が少なくなる時季は白い布をさらしたように見える。

涼を感じさせる午尾の滝=深瀬町岡崎

 滝の正面には見学用のベンチや手すりが設けられ、横には屋根付きのベンチを備える。水の流れが馬の尾に似ていたことが名称の由来になったとされる。

 景観を守っているのは60歳以上の地元住民でつくる「松寿(しょうじゅ)会」。毎月下旬の土曜に10人ほどが集まり、雑草を抜いたり落ち葉を集めたりしている。

 5月の大型連休中は、近くの那賀川河川敷で開かれる「加茂谷鯉(こい)まつり」に合わせ、滝上部の岩とベンチ前の手すりに2本のロープを渡して大小15~20匹のこいのぼりを遊泳させる。境内の舞台小屋には五月人形約200体を展示し、家族連れらでにぎわう。

 松寿会メンバーの佐々(ささ)豊昭さん(78)=深瀬町大畝町=は、県道から滝に向かう道沿いの山を知人から購入し、斜面を削った平地で2013年からシダレザクラやモクレン、ハナミズキなどを育てている。

 シダレザクラは高さ3メートルまで成長し、春には濃いピンクの花を咲かせる。趣味で始めたため公開する予定はなかったが、滝を見に来た人にも楽しんでもらいたいと、現在は無料開放している。佐々さんは「滝を訪れた人にいい思い出をつくってもらいたい」と、手入れに余念がない。

 

リストランテ岡本 くつろげる場を提供 

 那賀川北岸の県道阿南鷲敷日和佐線を西へと車を走らせると、道路右側にアイボリーと緑の外壁が印象的なイタリアンレストラン「リストランテ岡本」が姿を現す。

家庭的な雰囲気で迎えてくれる(右から)岡本光弘さん、美幸さん夫妻=深瀬町北久保の「リストランテ岡本」

 スイスの山小屋をイメージした木造平屋。岡本光弘さん(65)、美幸さん(62)夫妻が2019年12月に開店し、土日祝日のみ営業している。「ゆったりとくつろいでほしい」との当初からの方針で、ランチは3組、ディナーは1組の完全予約制だ。

 ランチ(1760円)は本場イタリアから取り寄せている麺やチーズを使ったトマトソースなどのパスタのほか、イタリア産小麦粉を使用したパン、甘さ控えめのヨーグルト、食後のコーヒーが付く。

 ディナー(5500円)は、パスタやサラダ、特製ローストビーフ、鳴門鯛(だい)のアクアパッツァなどのセット。イタリアワインは20種類以上そろえている。

 光弘さんは17年3月に市職員を定年退職した後、即席麺やレトルト食品中心の食生活を改めようと、以前から好きだったパスタ料理を作り始めた。インターネット上のサイトを参考にして腕を磨き、料理をフェイスブック(FB)で発信。「食べてみたい」といった声が多数寄せられた。

 反響に背を押され、吉井町皇神の飲食店「カフェボスコベル」を間借りして18年4月から1年間、日曜のみ営業した。評判はネットや口コミで広まり、予約で数カ月先まで埋まるほどになったため自分の店を構えた。

 岡本さん夫妻は「日頃のストレスを忘れ、リフレッシュしてもらいたい」と話す。ランチの開始時間は午前11時、正午、午後1時の3回。ディナーは午後6~9時。問い合わせは同店、電話090(2786)8967。

 

果樹オーナーの宿碧 収穫の喜び味わえる 

 吉井町片山の山林約1ヘクタールに、モモやスダチ、ミカン、ハッサク、ヤマモモなどを栽培する果樹園が広がる。果樹1本からオーナー登録でき、収穫した果実が手に入る。

客室のウッドデッキから果樹園を眺める(奥から)原幸喜さん、恵美さん夫妻=吉井町片山

 果樹園を営んでいるのは原幸喜(ゆきよし)さん(58)、恵美さん(56)夫妻。2005年に果樹オーナー制度を始めるとともに、宿泊して収穫を楽しんでもらおうと「果樹オーナーの宿 碧(あおい)」を同所に開業した。周辺に宿が少ないこともあって10年からは遍路の受け入れも始め、今では遍路宿としても知られる。

 オーナーになるには果樹1本当たり年会費3万円が必要。長く果樹栽培に携わってもらうため、初年度のみ5万円の入会金を設けている。オーナーは収穫時期に果樹園を訪れ、自ら収穫する。できない場合は原さん夫妻が代わりに収穫して自宅に送ってくれる。

 今は県内外の10組がオーナー登録している。モモが8組、ハッサクとユコウが各1組。このうち2組は子どもの誕生祝いや1歳の祝いとしてオーナーになり、その子はそれぞれ中学生になった。

 園内で収穫した果実は碧のホームページで販売しているほか、県内や関西のスーパーにも出荷している。近年、鹿や猿の食害に悩まされている。幸喜さんは6月から毎朝4~7時に園内にテントを張って見張った。深刻な被害は免れたものの、疲労で右足などに帯状疱疹(ほうしん)が出た。

 幸喜さんは「野生動物との共存は大変だけど、オーナーになるステータスや収穫の喜びを伝えていきたい」と言う。問い合わせは碧、電話0884(25)0267。