徳島県立近代美術館がインターネットで寄付を募るクラウドファンディング(CF)を初めて活用し、作品を購入した。「アール・ブリュット」と呼ばれるジャンルの作品である。

 公立の美術館がCFを行うのは全国的にも珍しい。コレクション充実のための時宜を得た、挑戦的な取り組みと評価できる。

 ただ公立美術館が作品を購入するのは、税金を原資とする予算で賄うのが本筋だ。予算不足などを理由に安易なCFに頼らないようくぎを刺しておきたい。

 アール・ブリュットは既存の美術教育に影響を受けず、思いのままに制作した独創性の高い作品のことである。人々の多様性が重視される中で注目が集まっており、近代美術館もここ数年積極的に紹介してきた。

 CFでは206の個人・団体から、目標額220万円を上回る238万4500円が寄せられた。アール・ブリュットに関する県民の強い共感と高い関心が示された、と言えるだろう。

 優れた作品が、寄付という行為によって県民の財産に加わることを誇りたい。

 作品は、ドイツ生まれのユダヤ人作家ローズマリー・コーツィー(1939~2007年)のドローイングで、9月12日まで特別公開されている(観覧無料)。

 夥(おびただ)しい数のペインティングナイフによる、激しいタッチが印象的だ。第2次大戦時のホロコースト(ユダヤ人虐殺)を生き延びた体験から生まれた作品だ。

 コーツィーはタペストリー作家として活躍する一方、40歳の頃から膨大なドローイングを描き始めた。幼少時の強制収容所生活によるトラウマがあり、作品には非業の死を遂げた同胞一人一人を弔う気持ちが込められている。

 一見して分かりやすい絵ではない。だが生や死と向き合い、表現せずにはいられない苦悩や葛藤から生まれた作品である。

 感受性の豊かな若い世代には、ぜひ会場を訪れ、作品と向き合ってほしい。

 近代美術館が作品を購入したり、寄贈・寄託を受けたりする場合、有識者でつくる資料収集委員会の了承を得て、手続きを進める。20年度の作品購入額はわずか130万円だった。

 今回は「購入費を直接負担することで、アール・ブリュットを身近に感じてもらい、自分たち自身の作品だと捉えてほしかった」(吉川神津夫学芸員)と、積極的にCFを選択した。

 このように目的がはっきりしたCFは大いに有用だろう。だがあくまでも例外的な手段と考えるべきであり、CF頼りに陥ることは厳に戒めたい。優れた作品の収集には、県の責任で予算を確保するべきだ。