徳島市が撤退した新町西地区再開発事業を巡り、市が再開発組合に支払った和解金など約4億6千万円の賠償を前市長の遠藤彰良氏に請求した問題で、遠藤氏は3日、市内の県教育会館で記者会見を開き、和解金の支払いは「適法な行政行為に伴う損失補償だ」と強調した上で、個人に支払い義務はないと改めて主張した。同席した川城政人、西村智子両弁護士は、市からの請求書には請求の法的根拠の記載すらない点を指摘し、「最低限の請求書の体裁も整えておらず、粗略な文書で反論のしようがない」と非難した。

 会見要旨は次の通り。

記者会見する遠藤氏(一番右)ら=徳島市の県教育会館

遠藤氏 組合への和解金の支払いは「不法行為による損害賠償」ではなく、「適法な行政行為による損失補償」だと思っている。まずは、お二人の弁護士、主に川城先生にお話をしていただいて、それから質問を受け付けたい。

弁護士 ご承知の通り、徳島市が遠藤さんに対して、徳島市が組合に対して支払った和解金及び弁護士費用として約4億5800万円の請求がなされている。一昨日、私たちが遠藤さんの代理人となって、「その請求については全く応じるつもりがありません」という旨の回答をした。その回答について説明したい。

 まず、私たちは徳島市からの請求が最低限の体裁を整えていないことに率直に驚いた。

 金銭を請求する文書では、相手に請求の内容、法律上の根拠を具体的に伝え、反論する機会を与える。それが最低限の体裁だと私は考えている。しかし、徳島市からの遠藤さんに対する文書については、法律上の根拠について全く記載がない。組合と徳島市との損害賠償請求訴訟の判決の一部分を切り取り、「市長としての不法行為責任を免れない」などと記載されているだけだ。一言で不法行為責任といってもいろいろな構成がある。どの法律に基づくものなのか。いわゆる求償ということなのか。徳島市からの文書では、それを全く読み取ることができなかった。

 このような請求書面では、私たち弁護士とすれば適切な反論が難しいと考える。地方自治体である徳島市が、このような粗略な文書で約4億5800万もの大きな金額の請求を、しかもその書面に納付書を添付して送るということに、率直に驚いた。

徳島市が遠藤氏に送った納付書

 こうした状況であるため、私たちとしても現時点で徳島市の請求に対して法的に整理した反論というのは難しい。もちろん、いくつかの法律構成について予想することはできる。ただ、それらを私達がすることは適切ではない。なぜなら、徳島市はこれから法的手続きを取る。対立当事者である私たちが、徳島市の法律構成について筋道を立てて説明することはしにくい。

 今回の件で私たちが確信していることは、遠藤さんが徳島市に対して損害賠償責任を負うということはありえないということだ。

 

時短営業に応じた店に協力金を支払うのと同じ

 理由はいくつかある。最も基本的で最も重要な理由は、徳島市が組合に対して支払ったお金の本質は、適法行為に伴う損失補償であるということだ。本件のおおもとは、組合の権利変換計画を徳島市が不認可処分としたこと。この不認可処分については、徳島地方裁判所、高松高等裁判所、最高裁判所において適法であることが認められている。つまり、本件の出発点となるのは徳島市の適法な行為。その一方で、徳島市の適法行為であっても、組合に損失が発生している。このように自治体の適法行為であっても、第三者に損失が生じるのは珍しいことではない。

 例えば、コロナ禍における飲食店に対する営業時間短縮要請。県が飲食店に対して時短要請を行う。これに応じた飲食店は、時短に応じた分の損失が生じる。県はその損失を補うため協力金を支払い、補償を行う。これが適法行為に伴う損失補償の分かりやすい例だ。この補償は県が負担すべきもので、県知事が負担すべきでないことは明らかだ。

 同様に、本件においても、徳島市が適法に不認可処分を行った。故にこれに伴う損失は、徳島市が負担すべきだと考える。不認可処分をした以上は、徳島市が必ず法律に従って損失補償する必要がある。そのためにどういう理屈をもっても、徳島市の適法行為に基づく損失補償の支払いを、遠藤さん個人が負担すべきであるという結論には至ることはありえないと思っている。

 今回の件をやや分かりにくくしているのは、組合が徳島市に対して金銭の支払いを求めた裁判が、不法行為を前提とする損害賠償の形でなされていることだ。裁判所は、当事者が求めた請求内容に応じて判断を下すしかない。そのため、組合が損害賠償を請求する訴訟を提起した以上は、裁判所は損害賠償請求訴訟の枠組みの中で、その判断を認定するしかなかった。

 徳島地裁は損害賠償責任として、徳島市が組合に対して金銭の支払い義務があることを認めたが、支払いの本質は適法行為に伴う損失補償の支払いであったことについては疑いがないと考えている。

事業変更案の有無に関わらず、補償金は支払うもの

 徳島市からの請求文書には、遠藤さんが個人的な責任を負う理由として、「具体的な事業変更案や補償の提案を行っていれば、徳島市に対する不法行為の成否を争う訴訟が提起されることはなく、判決において、徳島市が再開発組合に対して信頼に反する違法な行為を行ったと判断されることにも、和解金を支払うことにもなかった」と記載されている。

 しかし、遠藤さんが具体的な事業変更案や補償の提案を行ったか否かにかかわらず、徳島市が補償金の支払いをする義務があったことについては先ほど述べた通りだ。加えて、そもそも遠藤さんが具体的な事業変更案や補償の提案を行うことは難しかった、不可能であったと私たちは考えている。

 この点について少し補足する。遠藤さんは平成28年3月、市長選挙において明らかになった民意に基づいて再開発事業からの撤退を決めて、その権利変換計画を不認可とする処分を下した。そして、遠藤さんは撤退に際して、組合に生じた法的根拠のある損害については「補償する必要がある」と認識しており、これを明言している。しかし、組合側は徳島市の再開発事業からの撤退を受け入れておらず、不認可処分の適法性について争った。このような、不認可処分の適法性について組合と争い、裁判所の判断がなされていない状況下で、徳島市が代替案の提案を行ったり、補償額の具体的な提案を行ったりし、組合との間で合意に至る可能性が高いかと言われると、それは不可能であったと考える。また、再開発事業の施行区域内においては、都市再開発法において複雑な規制がされており、その規制が解かれるかどうか見通しが全く立たない状況で、徳島市が代替事業について具体的な提案を行うこと自体難しかった。

 補償金については、公金をもって賄うものであるため、市長個人の判断で安易に金額を決定したり、組合の要望に応じて支払ったりということはできなかった。遠藤さんとしたら、組合に対して法律に従って補償する必要があると認識する一方で、公金の過大な支出にならないよう減額を求めないといけない難しい立場にあった。本件の補償の金額は、事案の複雑さを踏まえると容易に算定できるものではない。

組合は6.5億円請求、判決は3.5億円

 そこで遠藤さんは、組合にも市民にも納得できるような補償金の金額となるよう、その金額の判断を専門家たる裁判所、裁判官に委ねた。徳島地裁の判決を見れば分かるが、この裁判で組合の請求額は約6億5000万であったのに対して、徳島地裁が支払い義務を認めたのは約3億5000万にとどまる。このことからも補償金の金額を裁判所の判断に委ねる遠藤さんの判断が正しかったことが分かる。

 また、組合側が過大とも思われる請求をしていることに照らせば、裁判に至る前段階で法的に適切な範囲で補償の金額についての合意が形成される状況ではなかったと思う。内藤市長は会見で「再開発組合との信頼関係の中、補償について協議し、適切な金額を算定し、議会の承認を得て支払うのと、再開発組合との関係が破壊され、徳島市が『違法な行為』と判決を受けて支払うのでは、支払う金額が同じでも、意味としてはまったく違うもの」と述べている。しかし、裁判に至る前段階で適切な補償金を算定することが難しい以上、そもそも、組合と前段階での協議で支払う金額と、判決に基づいて支払う金額が同じになることもあり得ない。市長が述べていることの前提がそもそも間違っている。

 考えていただきたいのは、組合との信頼関係を重視して約6.5億円のお金を支払うのがいいのか。裁判所の判決に基づいて約3.5億円の補償金を支払うのがいいのか。どちらが徳島市の利益になるのかということだと思う。

 このような事情を踏まえると、徳島市が不認可処分を行うに当たって、組合に対して代替事業の補償について具体的な提案を行い、合意に至らなかったことについて、遠藤さんに何らかの責任があるとは言えないと考える。

 以上のような理由から、私たちは、遠藤さんが徳島市に対して金銭の支払い義務を負う可能性は全くないと考えている。徳島市に対しては、今述べたような理由を説明した上で、徳島市に対して賠償金を支払うつもりはないと回答した。

内藤市長の方針も遠藤さんとまったく同じ

 徳島市が遠藤さんに対して損害賠償の裁判を提起する可能性は極めて低いと考えている。組合との損害賠償請求訴訟については、内藤市長が市長就任後、ご自身で控訴することを決定している。控訴審においては、徳島市(市長=内藤氏)は組合に対して補償金の提案をするどころか、「損害賠償責任を負うことはない。判決の金額が高すぎる」とし、徳島市の不法行為責任自体を争う主張をしている。

 また、監査結果によれば、内藤市長は控訴審において、「市が和解に応じることを検討するには裁判所からの積極的な和解勧奨、具体的な和解の金額、その算出根拠を示した和解案の提案が必要である」と主張しているようだ。この監査結果を見ると、内藤市長も補償の提案などしていない。

 内藤市長のこのような方針は、遠藤さんと全く同じく、補償の要否及び金額を司法の判断に委ねるという方針だ。内藤市長としても、ご自身と同じことをしている遠藤さんのみの責任を追及して、裁判できるのか。それは極めて疑問だと思う。

 このため、内藤市長が遠藤さんに対して、そもそも裁判を提起することは考えにくいと思う。徳島市議会でも訴訟提起の承認を得られないのではないかと考えている。

 以下、記者との主なやりとり。

記者 全国的に首長が高額の賠償請求をされるケースがいくつかある。住民訴訟を経たそうしたケースと今回で、どこが明確に違うか。

弁護士 「損失補償」という点だと思う。今回はいずれにせよ、「損失補償」として支払わないといけないお金を、たまたま組合が「損害賠償請求」という形で徳島市に対して訴訟提起したため、損害賠償責任を負うという判断が一審で下された。

記者 損失補償を地方自治体が支払うとき、法定根拠はないのか。

弁護士 法律上個別に記載されてる場合はある。例えば道路を造る場合など。

記者 一般な政策では。

弁護士 今回の場合、当てはまるものはないのではないか。

記者 会見で、市は「求償権を有する」と述べている。国賠法に基づくとしているが、具体的なことについては市からこれまであまり説明はなかったと私は解している。

弁護士 そもそも徳島市からの通知においては「求償権」という言葉は一切出てきてない。「徳島市長としての不法行為責任」としか書かれていない。会見で言われていることと、通知の内容がどういう関係にあるかなどについても正直、分かりかねる。 

 一般的に4億5000万も請求をする場合、それなりに説明しなければ払える金額ではない。それを、そのような粗略な文書で請求していること自体が、私は極めて遺憾なことだと考える。

記者 監査請求が出てから請求書を送るまでの間が非常に短かった。検討があまりなされてないと思うということか。

弁護士 その中でどういう検討がされたかはもちろん分からないが、日数だけからすると、正確な検討がなされたとは思えないと推測している。

記者 遠藤さんの今後の対応は。

遠藤氏 徳島市がどのようなことを私に要求してくるかということに尽きるのではないかと思う。今のままでうやむやにしていただけるんだったら、払わなくていいということだが、そういうことにもならないだろう。噂によると督促状が届くとは聞いたが、まだ届いていない。期日は過ぎたけれども、徳島市からいまだ何の連絡もいただいてないという状況だ。それで私がこうする、ということは今のところない。

弁護士 私から補足すると今回、お金を請求された。こちらは「支払いません」と明確にお伝えした。あとは徳島市がどういう対応するか。それに応じて、こちらが対応していく。

記者 徳島市は「訴訟も検討する」としている。遠藤さんも訴訟を視野に対策するのか。

弁護士 まずは徳島市の方がどういう結論出すかを見てからだと思う。

記者 改めて、徳島市に言いたいことがあれば。

遠藤氏 感情的に言っても仕方がないと思っているが、むちゃくちゃな請求であることはもう間違いないと思う。これで、「この金額を払え」という振込用紙が同封されていること自体にまず驚いた。何の明細もなく、この金額を払えと。通常、それで払う人はいないのではないかと思う。「これだけ和解金を払いました。あとは弁護士費用がお幾らです」というだけ。こんなむちゃくちゃな請求があるんだなというのが印象だった。これは一言で言えば、嫌がらせなんじゃないかと感じている。皆さんもそう思われるのではないか。  

 裁判になれば当然、私には大分費用がかかる。徳島市が負けた場合は、弁護士費用を税金で出しておしまいだという考えなのだろうか。

 今回の件は、違法行為を行ったのではなく、適法な行政行為を行ったことによる損失補償。その損失補償を個人で払う必要があるというのは、私はあり得ないのではないかと思う。

 マスコミの報道について思うところがあるので、述べたい。徳島新聞に「遠藤に責任がある」という見出しで弁護士のインタビューが掲載されていた。「責任がある」と断定していたので、その弁護士に電話をすると、「一般論を述べただけだ」と言う。その弁護士は、裁判記録の結論ぐらいしかおそらく見ていない。「裏にはこんな事情がある」と説明がなければ、断定することはできない。いろんな情報提供をした上で取材をしてほしい。しっかりと説明していただいたら、私に一方的に責任があると言う人は、あまりいないのではないか。個人の意見だ。

遠藤氏に支払いを求める徳島市からの通知書

記者 4億円あまりの高額な請求がされたことについて。どれくらい異例なことか。税金の滞納なら分割もできる。このように一括請求されることについて。

遠藤氏 調べたことはないが、異例中の異例ではないかと思う。私も市長を経験しているので、財産は公開している。「払えるわけがない」というのは、通知している方も当然承知してることだとは思う。調べていないので具体的なことは分からないが。

弁護士 私にも経験はない。極めて異例なことだと思う。皆さん方も請求書が来ることがあると思うが、例えば明細が付いているなど、内容が分かるようになっている。そんなものもなく、一括請求で、金額だけ。内容もよく分からない。一般常識からしてもありえない。

記者 記者会見では徳島市側は「法的措置を検討する」と述べている。一方で、遠藤さんへの支払いを求める通知書には、「期日までに支払わない場合は、法的措置をとる」と断言している。法律の専門家の立場から見て、こうしたことはよくあるのか。こうした行為をどう解釈しているか。

弁護士 少なくとも私が関わるケースではありえない。内容がよく検討されていないからこそ、「法的措置をとる」と言ったり、「検討する」と言ったりと混乱している部分があるのかと考える。

記者 請求に根拠となる法律や明細が示されていない。こうした請求は法的に有効なのか。

弁護士 請求した事実はあるとは思う。請求というのは「払ってください」ということが請求。こちらからするとよく分からない請求をされたということだ。

記者 「法的に有効な請求」を定めた規定はあるか。

弁護士 普通は請求の根拠となる法律についての記載がある。今回はそれが分からない。

記者 法的根拠のある請求かどうか分からないということか。

弁護士 そうだ。

弁護士 請求をするために、「こうしたことを書かなければならない」という規定はない。今回の件については、内容、請求の根拠が不明確であるということは申し上げておく。

記者 政策変更で第三者に損害が生じることはある。その際の補償額を裁判で決めるということは一般的によくあることか。

弁護士 金額にもよる。金額が大きければ大きいほど関心は高いし、異論が出やすい。そうした場合、判断を司法に委ねるというのは個人的には当然のことかと思う。公金の支出にも関わるので支払って問題になることもある。

弁護士 金額が簡単に機械的に算定できるかどうかにもよる。今回はそういうケースではないと思う。いろんな関係法があり、経緯も複雑で、簡単に算定はできない。市民や議会が納得する算定根拠を示すことも困難だったと言える。