受賞後の喜びや小説「空気」について話すなかむらあゆみさん=徳島市の自宅

 昨年、第3回阿波しらさぎ文学賞で徳島新聞賞を手にした直後は「次こそ大賞目指して頑張るぞ」と張り切ったが、少したつと「私の力では、もう、この上を望むのは難しい」と諦めた。一枚も書かずに過ごすうちに後ろ髪を引かれる思いがした。

 「徳島で誕生した文学賞を生粋の徳島人として手に入れたい」

 パソコンに向かったのは応募締め切りの1カ月前。しかし、テーマは固まっていた。「普通とは何か」「当たり前の生活とは何か」。小説を書き始めた4年前から一貫している。無意識だが、いつでも書けるように題材を考え、探していたという。

 受賞作のモデルは、空気を読むのが苦手な女性。実在する人物だ。この1年間で体験した親類との死別も素材として生かした。コロナ禍で、見えない空気を恐れ、おびえる現実社会も参考にした。夫を火葬して発生する煙をペットボトルに詰めて送り届けるという発想だけは、オリジナルのひらめきだった。

 書き進むうち、不思議な感覚に襲われた。主人公が思い通りに動いてくれなかったからだ。「泣いてほしい場面で違う表情を見せるなど、自分の思いを裏切る方向に進んだ。半ば諦め、彼女の動きに合わせて展開するしかなかった」

 彼女の振る舞いに共感するか嫌悪感を抱くかは、読み手の数だけあるかもしれない。それはどちらでもいい。彼女の行動によって、そうした独特の空気を醸し出せたら成功だ。

 最終選考委員の吉村萬壱さんは「なんと言ってもタイトルが秀逸。空気を読まない母、新型コロナの時代の空気、感染、父の存在の希薄さなどが凝縮されていて切れ味がある」と絶賛した。小山田浩子さんも「文章がうまくて語句も吟味され、話の運びも自然だ」と高く評価した。

 好きな作家はその小山田さんと今村夏子さん、川上弘美さんら。小説家が日記風につづったエッセーも好きだという。

 レイモンド・カーバーの「愛について語るときに我々の語ること」や、ジャン=フィリップ・トゥーサンの「浴室」は20代からの愛読書。シンプルな文体ながら情景が浮かびやすく引きこまれるという。

 考えが行き詰まると、ツイッターなどに頼る。同じ社会で暮らす人々の生の言葉や視点、映像が参考になるからだ。忘れていた景色がよみがえり、物語のイメージが浮かぶことも多い。

 「フィクションでも、現実にあり得ると信じられる事柄だけを言葉にしたい」

 母は児童文学作家の竹内紘子さん(77)。いつも先輩として作品を批評してもらっている。

 「母は『空気』について自分では思い浮かばない物語だと驚いた。母も創作意欲が湧くと言ってくれたのはうれしかった。今回の受賞を新たな出発と捉え、書き続ける原動力にしたい」

 これまでに書いた小説の主人公は全て女性。「次は男性を描き、初の恋愛ものに挑戦したい」と目を輝かせた。

 「第4回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞」の受賞者3人に、作品に込めた思いを聞いた。3回に分けて紹介する。