小型のトラクターで畑を耕す蔭山さん=吉野川市鴨島町

 真っ黒に日焼けした顔に大粒の汗が光る。ゆっくりとした足取りで小さなトラクターを押すのは、カーショップの元オーナーという経歴を持つ蔭山千明さん(39)=吉野川市鴨島町鴨島。自宅近くにある約3千平方メートルの畑で、野菜の無農薬栽培に取り組んでいる。カーショップオーナーのほか、工場勤務などの職歴を経て最後にたどり着いた仕事が農業だった。 

カーショップのオーナー時代は車のカスタムや販売を手がけていた(蔭山さん提供)

 1998年に鳴門工業高を卒業した蔭山さんは、保険の営業などを経て2012年に徳島市のカーショップに就職。板金塗装に関する技術や車売買のノウハウを習得し、14年に自らのカーショップを開いて念願の独立を果たした。オープン当初、店の評判は上々だったが、長引く不況などの影響で経営は次第に右肩下がりになり、18年にやむなく廃業した。「長年にわたって抱いていた夢がようやくかなったが、現実は厳しかった。本当に悔しかった」と当時を振り返る。
 その後、廃業に伴う多額の負債を返済するために製造工場に就職。サラリーマンとして働きながらも、何か満たされないような思いがくすぶっていた。
 そんな日常を過ごす中で、没頭したのが趣味の家庭菜園だった。最初はミニトマトから始め、ハクサイやキャベツ、ダイコンなど多様な野菜を栽培。プランターで育てていたリーフレタスは、ネットを張ってもすぐに虫が付くなど育てるのが簡単ではなかったが、そうした苦労も楽しかった。
 ある日、自宅近くの駐車場の砂利の間から小さな芽が出ているのを見つけた。よく見ると、プランターで栽培していたリーフレタスだった。いつの間にか駐車場に根付いたリーフレタスは虫に食べられることなく、すくすくと成長していた。「植物の持つ生命力の強さに心を打たれた。奥深い自然界のルールに探究心をかき立てられた」
 本格的な農業の経験はなかったものの、これを機に就農を決意。負債を返済し終えた昨年3月に工場を退職し、吉野川市鴨島町の農地を購入。同12月から本格的に農業を始めた。

蔭山さんが栽培するスイスチャードなどの西洋野菜(蔭山さん提供)

 メインで栽培するのは、鮮やかな赤色が特徴の根菜ビーツや、カラフルな茎に大きな葉を持つ葉菜スイスチャードなど約15種類の西洋野菜。「工場を辞めた後に訪れた県内外のレストランで西洋野菜を使った料理を食べた。その形や色合い、独特の味に衝撃を受け、自分でも育ててみたいと思った」。
 インターネットや専門書を使って栽培法を学び、試行錯誤を重ねながら独自に栽培法を確立。西洋野菜の普及を目指し、会員制交流サイト(SNS)で料理のレシピを定期的に紹介する。

毎週土曜に設けられる直売所

  今年3月にはJR鴨島駅前に直売所をオープン(土曜のみ)させた。店名はアメリカ大陸を横断する国道66号をモチーフにした「Farm Park ROUTE66」。勤めていたカーショップではアメ車を扱っており、独立を目指していた当時の前向きな気持ちを忘れないようにするためだ。
 カーショップのオーナーになるという夢をかなえながらも、不況の波に飲まれて廃業し、多額の負債を抱えるという激動の半生を送ってきた蔭山さん。農業は苦労も多いが、大好きな野菜に囲まれた仕事の充実感はそれ以上に大きい。
 「カーショップの経験は直売所での『接客』に、工場での経験は野菜の『品質管理』にそれぞれ役立っている。これまで歩んできた人生に無駄なことは一つもない」と笑顔を見せる蔭山さん。「農業のイメージを変えていく。若い人が就職したいと思えるようなかっこ良い仕事にしていきたい」と語った。

西洋野菜のビーツを持つ蔭山さん=吉野川市鴨島町

【HPはこちら】

【動画】https://youtu.be/spq9AA0H8F0