「小説の魅力は自分の表に出てこない何かが突然、露呈してしまうこと」と話す茜あゆむさん=静岡県

 小説コンクールに応募を始めたのは19歳のころだが、受賞経験はなかった。思い付いて初めて阿波しらさぎ文学賞に応募した。そして、念願の徳島文学協会賞に選ばれた。「人生のつらい時期や諦めそうになる時、必ず誰かが手を差し伸べてくれた。とても幸運だと思う。生きていく理由がまた一つ増えました」と電話口で喜びを語った。

 受賞作「移動する祝祭日」は、大雨の後に停電したスーパーが舞台。アルバイトをする主人公が、売り場を片付け、青空の下で同僚女性と弁当を食べるという何げない物語だ。題名はヘミングウェーの「移動祝祭日」に着想を得ている。

 「何か事件が始まるのとは違う書き方をしようと思った。書きたかったのは、雨の後のすっきりとした晴れ模様」と語るように、物語よりも雰囲気を再現することを意識したという。

 情景描写には特に力を入れた。これまでの人生で見つけた美しい風景が、必然的に小説に登場することになる。例えばこんな表現だ。〈売り場に立ち上がる光の柱はほこりをきらめかせて、天上に嵌め殺された窓へ一直線に集まっていた。窓からは空の青色が見える〉

 「基本的には、実生活のデッサンに近い」。自身もスーパーでアルバイトをしており、リアリティーはそこから生まれたようだ。

 徳島が登場するのは、小説終盤。同僚女性が「徳島に引っ越すことになった」と告白することから、一気に徳島の話題になる。ジブリ映画の「平成狸合戦ぽんぽこ」の話になり、急に場が和む。

 そして、ラストでは近づいてくる電車が、実は連なる炎だったという描写に至る。「神秘性を意識したつもりはない。心のどこかにタヌキやキツネは化けたり、狐火や狸火を出したりする生き物と考えているところがあり、そんなふうに描いた」

 〈それが十両編成でやってきて、最後の炎がふるふると身をよじると、風が吹いて、それがその日一番の大風だった〉

 「ラストの一文が書けた時、ほっとした。この一文を大切にするという意識がいい方向に働いた」と胸をなで下ろした。

 東京生まれ。今も住む静岡県で育った。高校を中退後、フリーターをしながら小説を書く日々だ。

 好きな作品は「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」(入間人間)「夜間飛行」(サンテグジュペリ、堀口大学訳)「夢の棲(す)む街」(山尾悠子)など。

 今後の目標は「小説を書くことで生計を立てること」ときっぱり。だが、内容については、一貫した興味や課題を持てないでいるのが現状だ。書き始めた小説がどれくらいの長さになるかつかみ切れておらず、受賞作も規定の15枚より少し短めだった。

 8月に25歳になったばかり。「その時ごとに出合う小さな疑問や違和感を大切にして、これからも書き続けたい」。