コロナ禍でありながらも人気が年々高まり、過去最多の516編の掌編小説が寄せられた「第4回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞」(徳島文学協会、徳島新聞社主催)。11日に徳島市の徳島新聞社で授賞式があった後、記念文学トークが開かれた。阿波しらさぎ文学賞のなかむらあゆみさん、徳島新聞賞の宮月中さん、徳島文学協会賞の茜あゆむさん、最終選考委員を務めた芥川賞作家の吉村萬壱さんと小山田浩子さんが、受賞作や文学賞の魅力などについて意見を出し合った。司会は徳島文学協会の佐々木義登会長(四国大教授)が務めた。両選考委員と茜さんはビデオ会議システムでのリモート参加となった。

ズームでの出演を交え、受賞作や創作への思いなどが語られた記念トークイベント=徳島市の徳島新聞社

 

受賞者の言葉

「今後の執筆の原動力」 阿波しらさぎ文学賞 『空気』 なかむらあゆみさん

 佐々木 受賞者3人に心からお祝いを申し上げます。それぞれに喜びの言葉をいただきます。

 なかむら 賞が創設された第1回から挑戦してきたが、トンネルの中にいるような不安な気持ちだった。受賞して、ようやくまぶしい光を浴びることができてうれしい。受賞は今後の執筆活動の原動力になる。徳島の書き手として努力を重ねたい。

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「地元・徳島見つめ表現」 徳島新聞賞 『にぎやかな村』 宮月中さん

 

 宮月 大変光栄です。地方文学賞としては廃村というふさわしくないようなテーマを取り上げた。しかし、世界に共通する問題だと思う。徳島に住んでいるのだから足元を見つめ、好きな徳島を表現してみたかった。評価してもらえてうれしい。

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「読んでもらえる喜び」 徳島文学協会賞 『移動する祝祭日』 茜あゆむさん

 

  ありがとうございます。幸運でした。他人に作品を読んでもらったのは初めて。作品を人に読んでもらえることが、これほどうれしいとは思わなかった。受賞について高校時代の恩師に報告すると心から喜んでくれ、お祝いとして万年筆を贈ってくれた。

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 小山田 皆さん、おめでとうございます。最終審査に残った作品の層は厚く、審査は長時間かかった。「空気」は、一人の人について多くの面からさりげなく書かれていたのがよかった。「にぎやかな村」は文章だけでできた世界を信じさせる力があった。五感と理知のバランスの良さを感じさせた。「移動する祝祭日」は分からない部分があったが面白くて好き。作者は書いている世界に確信があるのだと思う。言語感覚が独特で次作を楽しみにしたい。

 吉村 自分が選んだ作品が受賞するかどうかが審査の醍(だい)醐(ご)味(み)だが、複数人で審査をすると客観的になっていい。今回、そのダイナミックさを感じた。「空気」は時代や親子などいろんな空気が凝縮されている。時代が生んだ作品だ。「にぎやかな村」は徳島に住んで徳島の豊かさ、宝物を書く強みが出ている。廃村にいた人々が都会で暮らす人々に対して生き方を問い掛けている作品といえる。「移動する祝祭日」は最初は候補作に選んでいなかったが、小山田さんの意見で見方が変わった。異次元に引き込む文の力を味わうことができた。

 

文学賞の魅力

「受賞者と一緒に育つ」吉村萬壱さん(芥川賞作家)

 佐々木 文学賞の魅力とは何でしょうか。

 吉村 文学賞に絶対的な権威や、お墨付きがあるわけではない。受賞者が活躍することによって文学賞が育つといえるだろう。賞は、賞そのものと人が一緒に育っていくダイナミックさを持っている。応募者にとっては作品を読んでもらうのが一番。自分の作品がどの程度のレベルなのか、そしてその結果報告を待つのが面白い。どこかの文学賞で落ちても、別の文学賞で通る可能性があるから諦めないでほしい。

 小山田 私はある文学賞の1次選考で落ちた経験がある。現在、幾つかの賞の選考委員を務めるようになって、ある作品を上にするか、そこでいいのか、一概には言えない作品もあった。受賞は運の要素も多い。大切なのは自分が楽しんで書けたかどうかだと思う。書く喜びは読む人に伝わる。楽しく書けたら、手応えを信じるといい。もし評価されなければ「この賞は自分に合っていなかった」と思えばいい。

「楽しんで書くこと大切」小山田浩子さん(芥川賞作家

 なかむら 原稿用紙15枚分では、いろんな話を詰め込めない。どんな点に注意して書けばいいか。

 吉村 15枚の分量では確かに多くの情報を盛り込めない。調子が乗ってきた時には、もう残りが少ない。分量を弁当箱に例えれば、ぎゅうぎゅう詰めにせず、入れ物によって工夫するのがいい。

  書いている途中で、自分が何を書いているのか分からなくなる時がある。そんな作品を書いてしまった時、どうすればいいんでしょうか。

「全国的に注目、質高まる」佐々木義登さん(徳島文学協会長)

 吉村 書き上げたら、とりあえず誰かに渡すのがいいと思う。文学賞に応募するのがいい。エネルギーを使って書いた作品は、改めて読み返してみると何を書いたかが分かる。原稿は絶対に捨てないことだ。

 小山田 こういうものを書こうと決めて出発するよりも、訳が分からない方が面白い。1、2週間おいて読み返すといい。

 佐々木 言葉がつむがれる瞬間ってありますか。

 吉村 まず1行書いてみる。その1行が面白いと思ったら次の行を書く。それを重ねていくといい。

 小山田 日記を書いてみたらどうか。日記は本当のことを書くが、あの時ああすればよかった、というふうに考えながら書いていけばフィクションになる。

 佐々木 今回は応募作516点から1次選考で50点に絞り、さらに2次選考で19点になり、最終的に3点が受賞した。落選した人のためにも、当落を分かつものは何なのか、基準を教えてほしい。

 吉村 最終選考に残っているだけですごい。大きな違いはない。ただ、緑色がたくさんある中で赤色が目立ったということだ。

 小山田 簡単に言うと、残る作品はすごみがある。執(しつ)拗(よう)なまでの描写があり、圧が強い作品といえるだろう。私が望むのは、私がいる同じ世界で、同じ地面で生きている事実を伝えてくれる作品だ。

 佐々木 4回目を迎え、作品の質が高まってきた。今回から審査回数を増やしたが、それでも審査が難しくなっている。阿波しらさぎ文学賞が全国的に注目されるようになった証拠だ。では来年の5回目に向けて、応募者にエールを一言ずつお願いします。

 小山田 県内外から、どんな新しい徳島が発見されるか楽しみだ。コロナ収束が楽観できない。作品づくりにも関係すると思うが、しっかり向き合ってアウトプットしてほしい。

 吉村 徳島をもり立てるという考えは捨てて、徳島を微妙に作品にからませるだけでいいので、どんどん書いてほしい。

 

編集後記

来年こそ全員会場に

 新型コロナの影響で、記念文学トークは2年連続でビデオ会議システムを交えての開催となった。静岡県在住の茜あゆむさん、大阪在住の吉村萬壱さん、広島市に住む小山田浩子さんは、徳島の会場に来られず、残念だっただろう。

 受賞者にとって、記念文学トークは、もう一つの特典といえる。憧れの作家や同じ受賞者仲間と実際に会い、親しくなれるからだ。

 第1回と第2回のトークは、受賞者と最終選考委員、ゲスト作家ら全員が来県し、その迫力は会場を圧倒するほどだった。

 直木賞作家の三浦しをんさんや角田光代さん、芥川賞作家の玄月さんも参加し、トーク後の著書販売コーナーにも長蛇の列ができた。受賞者を交えた打ち上げなどもあり、阿波の幸に舌鼓を打ちながら、作家の素顔に接するまたとない機会だった。

 昨年から最終選考委員となった小山田さんは、2年連続でリモート参加となった。夫が徳島県出身でもあるため、ぜひ生の声を聞かせてほしかった。小山田さんは、特に茜さんの受賞作を絶賛していたこともあり、もっと詳しく作品について意見を述べたかったことだろう。初の女性選考委員として、応募数の増加にも貢献しているため、会場のファンも生の小山田さんを見たかったに違いない。

 初めてビデオ会議システムを使っての開催となった昨年は、本屋大賞作家の凪良ゆうさんがゲスト作家だった。ぜひ来県してほしかった。

 これも全てコロナのせいで嘆いても仕方がないが、第5回となる来年こそは、受賞者と最終選考委員の全員が一堂に会し、阿波しらさぎ文学賞の記念文学トークをさらに盛り上げてくれることを期待したい。コロナ収束を切に願う。