2年前の米大統領選で耳にした言葉が胸中によみがえった。<ラブ・トランプス・ヘイト>。訳すと<愛は憎しみに勝る>。ヒラリー・クリントン氏が、差別的な発言を繰り返していたトランプ氏を皮肉って連呼した標語である

 もしや皮肉なしに「愛は…」と思っている?北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が昨日見せた表情は、そう勘ぐりたくなるほど晴れやかだった。史上初の米朝首脳会談はよほど和やかに進んだのだろう。トランプ米大統領も「とても才能ある人」と金氏を褒めちぎった

 2002年の日朝首脳会談実現に奔走した元外務審議官の田中均氏から、当時の裏話を聞いたことがある。金氏の父・正日氏が会談で唯一、色をなして論じたのが「米国がいかに信用できないか」についてだったという

 16年が過ぎた。代替わりもした。米朝の間では首脳会談を契機に、新時代の関係が築かれるのか

 いや、待てよ。2人は最近まで「小さなロケットマン」「老いぼれ」とののしり合っていた。朝鮮半島の完全非核化も確約したというが、果たして信頼に足るのか

 疑問符が浮かんで、消えない。さりとて歴史的なトップ会談という実を結んだのは事実だ。余勢を駆って、日本の首相の出番である。笑顔が絶えない正恩氏の口から聞かねばならない。拉致問題の解決を、はっきりと。