<初心忘るべからず>は、室町時代の能役者・世阿弥の言葉。一子相伝の秘伝書「花鏡」に記した芸の神髄としていまに伝わる

 最初の志を忘れてはならないとの意味でよく引用されるが、真の教えは違う。若い時から老後まで、人生の折々で自分に未熟さがあることを自覚しなければならない-というのが元々。それが転じて昨今の用途になったと大抵の辞書にある

 趣旨が微妙に異なって伝わるとは、世阿弥も予想しなかったろう。芸の大家に許しを請い、昨今の解釈に立ってある統計を見てみる

 いまの気持ちを漢字1文字で表すと? 日本能率協会が4年ごとに行っている新入社員対象の意識調査。最多は「新」だった。次点は「挑」で「努」と続く。少数意見で「迷」「恐」も見受けられるが、前向きな言葉が上位を占めたのは、社会の閉塞感に対する不満の裏返しか

 理想の上司像に関する回答結果も興味深い。1位は「部下の意見・要望を傾聴する」で、過去2回トップの「仕事で丁寧な指導をする」を初めて上回った。各種ハラスメントや過重労働など、とみに問題視される組織圧力への拒否権発動なのかも

 世阿弥は、大切な弟子だった長男のために花鏡を著したとされる。ポジティブな意識で門出し、上司には聞き上手であってと求める当世の新入社員気質。大家は何を思う。