一日千秋の思いで拉致被害者の帰りを待っている家族にとって、実りある会談だったと言えるだろうか。

 トランプ米大統領が、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との米朝首脳会談で日本人拉致問題を提起し、日朝関係に関する日本政府の方針を説明した。

 拉致、核、ミサイル問題を包括的に解決すれば、日朝平壌宣言に基づき、国交正常化と非核化費用負担などの経済協力を行う用意があるとの内容とみられる。

 北朝鮮の最高指導者に、直接拉致問題を提起した米大統領はトランプ氏が初めてだ。

 拉致問題は日本が取り組むべき懸案だが、米国の後押しが欠かせない。歴史的な米朝首脳会談で、拉致問題が取り上げられた意味は大きい。

 米朝会談後、トランプ氏と電話会談を行った安倍晋三首相は、米朝首脳の拉致問題を巡るやりとりについては「詳細は言えない」と述べるにとどめた。

 しかし、拉致問題が提起された際、金氏が「解決済み」とは言及しなかったことが分かってきた。

 これまで北朝鮮は「解決済み」とする姿勢を崩していなかっただけに、しっかりとした分析が必要である。

 核・ミサイル開発による強硬路線から、米朝会談で対話路線にかじを切った金氏にとって、疲弊した北朝鮮の経済を再生させるためには、日本との関係改善が不可欠だ。

 だが、金氏が日本政府認定の拉致被害者で安否不明の12人について「8人死亡、4人未入国」とした従来の主張を繰り返すばかりであれば、日本からの経済支援は受けられない。

 北朝鮮は2014年に、拉致被害者の再調査を含む包括的調査を約束したストックホルム合意を結んだが、16年に一方的に中止を宣言した。

 しかし、4月の南北首脳会談後、日朝両政府は水面下で接触し、合意が維持されているとの認識で、基本的に一致している。再調査が行われれば、拉致問題解決への突破口になる可能性がある。

 安倍首相は日朝の直接対話による拉致問題の進展を目指す決意を示したが、緻密な戦略が求められよう。会談が実現しても、金氏相手の交渉は一筋縄ではいくまい。

 それは、米側が求めた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」の文言が今回の共同声明に盛り込まれなかったことからもうかがえる。

 それでも、拉致問題をいつまでも膠着状態にしておくことは許されない。

 米朝会談を受けて、拉致被害者家族からは、期待や不安の声が上がっている。

 横田早紀江さんは「奇跡的なことが起きた」と会談を歓迎し、安倍首相と金氏の話し合いに期待感を示した。家族らには、この機を逃してはならないとの思いが強い。

 安倍首相は国際社会の協力を得て、はっきりとした成果を上げなければならない。