越後妻有(つまり)地方(新潟県)の里山の暮らしを追った「風の波紋」(小林茂監督)は、少し変わったドキュメンタリー映画だ

 主役らしき人はいる。だが、この東京からの移住者、何かを声高に主張するわけではない。田舎はいい、比べて都会はねえ、といった説教くさいせりふの一つや二つ、しかつめらしい顔つきで語りそうなものだけど

 雪下ろしや田植え、地震で傾いた民家の修復、ヤギをつぶしての宴会と、カメラは移住者とその周辺の人たちの日常を、淡々と撮り続ける。退屈? いや全然。いつの間にかスクリーンに引き込まれ、村人と一緒に飲んで、食って、笑い、働く。そんな気分にさせてくれる作品である

 徳島市出身の松下照美さんも登場する前作「チョコラ!」では、ケニアの貧しい子どもたちを描いた小林監督。「一作、一作、新たな対象と向き合うたび、それまでの自分の価値観が、がらがらと崩れる。それが映画作りの面白さだ」

 では今回は何が-。「草のにおい、土のにおい、汗のにおい。これは本物だ、と感じさせてくれるんですよ。村の人たちは」

 かつて田舎が嫌で逃げ出した経験のある監督が、5年かけて見詰め直した故郷・新潟。見て、感じて、考える。地方に暮らすからこそ必見だ。自主上映会の問い合わせは「東風」<電03(5919)1542>。