御所地区の名物料理「たらいうどん」(阿波市観光協会提供) 

 清流・宮川内谷川が流れ、「土御門上皇終焉の地」の伝説が残る徳島県阿波市土成町御所地区。当地の名物料理といえば、「たらいうどん」である。香川県境に近い国道318号に面して、専門店6軒が営業している。

 食べ方は至ってシンプルである。たらいに数人分のゆでた麺を入れ、みんなで囲みたい。家族連れでもよし、気の置けない仲間でもよし。初対面でも、同じ釜の飯ならぬ、同じたらいのうどんを食べれば、打ち解けること、請け合いだ。

 この辺りは雨の少ない乾燥地域で、小麦の栽培が盛んだった。そして山林から木を伐り出したり、その材木を宮川内谷川を使って運搬したりする作業員たちのため、川原でうどんを振る舞う習わしがあった。その際には、谷川からハゼの一種「ジンゾク」という川魚を捕り、出汁(だし)にしていた。

 一人一人に取り分けるには手間が掛かるため、ゆでた釜から直接食べていた。やがて「飯盆(はんぼう)」と呼ぶ、たらいのような木製の入れ物を使うようになった次第。

 そんなたらいうどんが、徳島を代表する郷土料理にまで名を高めた影の立役者が、戦前の県知事・土居通次である。

 1931(昭和6)年に当時の御所村(現・阿波市)を訪れた土居知事は食事を振る舞われ、「たらいのような入れ物に入ったうどんがおいしかった」と周辺に語ったという。これが評判となり、「御所といえば、たらいうどん」と名を成すことになったのだ。SNSなどなかった時代であるから、口コミで広がったのだろうか。

 阿波市観光協会は2015年、この故事にあやかって、11月7日を「御所のたらいうどんの日」と定めた。知事が村を訪れたのが、11月7日に催された土御門上皇没後700年祭の出席のためだった、と推測されるためだ。

 今年も11月5~7日に「御所のたらいうどんの日フェア」を行い、各店では連日大盛況だった。コロナ禍で客足が遠のき、苦しい時期もあったと思われるが、にぎわい復活の狼煙(のろし)としたい。

 近くの道の駅どなりでは、直径8・7メートルのジャンボたらいが展示されている。1992年10月のイベントで使われ、このときは2・5万人の来場者で大いににぎわった。道の駅では手打ちうどん作りも体験できる(要予約)。

〈2021・11・9〉