冤罪(えんざい)は人の一生を台無しにする。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則は貫かれたのだろうか。

 1966年に静岡県で4人が殺害された強盗殺人事件で、死刑が確定した袴田巌さんの第2次再審請求である。

 東京高裁は、2014年に静岡地裁が出した再審開始の決定を取り消した。

 争点は、確定判決が犯行時の袴田さんの着衣と認定した「5点の衣類」が、袴田さんのものかどうかだった。

 弁護側の筑波大・本田克也教授の鑑定は、衣類の血痕のDNA型が袴田さんや被害者のものとは一致しなかったと結論づけた。

 静岡地裁はこの鑑定結果を「無罪を言い渡すべき新たな証拠」と認定し、袴田さんを釈放した。

 これに対して、東京高裁は「研究段階の手法で、通常に比べて外部からのDNAに汚染されやすく、科学的原理や有用性に深刻な疑問がある」として「結果は信用できない」と判断した。

 無実を主張する袴田さんにとっては厳しい結果だ。救いは、静岡地裁が認めた死刑と拘置の執行停止を、高裁が支持したことである。

 82歳と高齢の袴田さんは、釈放から4年が過ぎた今も、妄想を引き起こす拘禁症状の影響が残っている。

 弁護団は特別抗告する方針を固めており、舞台は最高裁に移る。DNA鑑定を巡って地裁と高裁が反対の判断を示したため、最高裁は慎重な審理を求められる。

 袴田さんの死刑が確定したのは1980年だった。

 最初の再審請求は退けられ、2008年に申し立てた第2次再審請求で、静岡地裁が再審開始の決定を出した。袴田さんの釈放は実に約48年ぶりだった。

 裁判にこれほどの歳月がかかるのであれば、仮に「無罪」が確定したとしても、失われた人生を取り戻すすべがない。

 問題は、判決が確定した後の証拠開示に関して法律上の規定がないことだ。検察側に開示を勧告するかどうかは、裁判所の判断次第というのが現状である。

 袴田事件でも、第1次請求審では証拠開示が一切認められなかった。

 第2次請求審では、地裁の再三の勧告を受け、検察側が事件当時の着衣のカラー写真など約600点を開示した。 即時抗告審でも、袴田さんの取り調べを録音した約48時間分のテープが一転、開示された。しかし、証拠を一覧化したリストの開示は拒んだままだ。

 検察側の対応には、首をかしげざるを得ない。なぜ、そんなに、証拠を出し渋るのだろうか。

 証拠の開示は極めて重要であり、法制化に向けて速やかに検討すべきだ。

 再審請求の最終結果を待つことなく、今回の事件の裁判で得た課題を、今後に生かさなければならない。