新型コロナウイルスが国内で流行し始めて約2年。子どもたちにとっても日常生活は一変した。入学式や文化祭など学校行事の中止、休校、海外留学の延期、外出自粛…。さまざまな学びや成長の機会、日々の活動までもが制限される中、子どもたちはどのようにストレスを解消しているのだろう。徳島県内の小中高生に尋ねると、「自転車をかっ飛ばす」「歌う」など、自分なりの解消法を教えてくれた。全国の子どもたちはどうか。国立成育医療研究センター(東京)は、アンケート調査で集まったストレス解消法をウェブなどで公開している。小児科医のアドバイスと併せて、コロナ下の過ごし方のヒントを探る。
コロナ下の生活 県内の子どもはどう感じている?
11月下旬、県内の小中学生にコロナ下でのストレスついて聞いた。
「学校行事が中止になった」
「友達と遊びに行けない」
「気軽に県外に出掛けられない」
「部活の大会がなくなった」
「友達と話しにくい」
マスク着用の生活には慣れたものの、何かしらの不自由を感じているようだ。では、そのストレスはどうやって解消しているのか。
「あなたのストレス発散方法は?」
「自転車でかっ飛ばす」 中学2年・男子(14)
「外に出て近くにある石を誰もいない所に蹴る」 中学3年・女子(15)
「温泉に行ってサウナに入る」 中学3年・女子(14)
「目をつぶって寝る」 小学5年・男子(11)
「物に当たる」 中学3年・男子(14)
「歌う」 小学3年・女子(9)
「友達とおしゃべり」 高校3年・女子(17)
「好きなアーティストの動画を見る」 高校3年・女子(18)
「音楽を聞く」 高校2年・男子(17)
「スポーツをする」 高校1年・男子(15)
子どもたちに尋ねたところ、上記のような回答が返ってきた。「つい物に当たってしまう」という子も何人かいた。勉強や友人関係、部活動や習い事など、学校生活で嫌なことがあった時は皆、思い思いの方法で気分をリフレッシュさせている。
いろいろあります、子どものストレス解消法
子どもたちのこうしたストレス解消法をまとめた資料がある。国立成育医療研究センターが作成した「こどもが考えた気持ちを楽にする23のくふう」だ。同センターの研究者・医師の集まり「コロナ×子ども本部」が今年2~3月、小学1年~高校3年の児童生徒らを対象にオンライン調査を実施。コロナによる心身への影響などに関する質問に、501人が回答した。このうち、「ストレスを感じたらどんなことをして気持ちを楽にしているか」との問いに対する回答を23の方法に分類して公表している。
「抱き締める、甘える」「自然に触れる」
資料では「抱き締める、甘える」といった子どもらしい解消法や、「寝る」「考えない」「声に出す」など、すぐにでも実践できそうな方法、「外出する、場所を変える」「運動する、体を動かす」「自然に触れる」など、友人や家族と実行できそうな対処法が挙げられている。具体例も紹介されており、「物で発散する」の項目では「練り消しゴムに鉛筆をぶすぶす刺す(小学5年)」「何かを思いっ切りかむ(小学5年)」「家に帰ってマスクを思い切り破り捨てる(高校1年)」「何かに八つ当たりして力いっぱいたたく(小学6年)」など、はたから見たら少しびっくりするような対応策もあった。
解消法をシェアしてより良いストレスケアに
資料では硬い言葉を使わず、子どもたち自身の言葉で表現している。活動の中心メンバーで小児科医の半谷まゆみさん(36)は「ストレスに対してどう対応するかの『ストレスコーピング』はシェアすることで強化される。より良いストレスケアや気付きのきっかけになればいいと思って公開した。子どもならではの表現で書いてあるので大人もほっこりするし、子どもたちにも温かみが伝わるのではないか」と話す。
ストレスコーピングは誰もが普段から無意識に行っているが、コロナ下などで過度なストレスがたまると対処法が思い付きにくくなるという。半谷さんによると、気軽に友達と遊びに行くといった従来のストレス解消法ができなくなり、「ゲームしかしたくない」「何もやりたくない」と言う子が出てきている。「そうなると、自分自身も周囲もつらい状況になってしまう。『23のくふう』を読んで、少しでも気持ちが楽になる方法に周囲と取り組んでほしい。『私はこういう時にこういう方法を取ると楽になる』と認識できると、より効果的」とアドバイスした。
誰かに伝えることもストレス発散には有効だ。「声に出したり書き出したりして、自分の気持ちを外に出すのは科学的にも効果があるとされる。さらに、誰かに話すことによって安心感が得られる。SOSを知らせると、寄り添って考えてくれる人も出てくるはず」と指摘する。
大人が気配りを 「ストレスがたまるのは悪いことではない」
今回の調査では、多くの子どもたちがストレスを抱えたままになっている実態が見えてきたという。「コロナの収束が見通せない中、不自由な生活に不安や不満を抱えたり、他人との距離が近いことに違和感を感じたりしてしまう子がいる。長期的に影響が出る子も少なからずいるだろう」と、半谷さんは先行きを不安視する。大人同士はオンラインで簡単にコミュニケーションが取れる一方で、子どもは大人に対して「大変そうに見えて遠慮してしまう」「マスクが邪魔になって相談しにくい」との声もあり、意思疎通に困難を抱えているようだ。心の距離を縮めるためには、子どもへの気配りが必要だ。
半谷さんは「ストレスがたまるのは普通のことで、悪いことではないと知ってほしい。『23のくふう』を読むことで自分が持つ力や普段やっていることに気付き、再認識してもらうこともストレスケアにつながる」と話している。
コロナ下での子どものストレス 大人ができることは?
コロナ下でのストレスは子どもたちにどう影響しているのか、学校や家庭でサポートできることはあるか。長年、心身症や不登校などの子どものケアを行ってきた徳島赤十字ひのみね総合療育センター顧問で小児科医の中津忠則さん(71)に尋ねた。
コロナ下のストレスは大きなマイナス要因
同センターでは、コロナ下で受診する子どもたちが増えたそうだ。不登校や心身症などの要因は単一ではないものの、中津さんは「コロナ下でのストレスは子どもたちにとって大きなマイナス要因。学校が休校になるなど生活環境が変化したのは大きなストレスだろう」と推察する。家族に問題を抱えている場合は、家にいる時間が長くなると問題が顕在化するという。厚生労働省のまとめでは、2020年度の児童虐待の対応件数が全国で20万5029件と過去最多を更新した。中津さんは「コロナで虐待が増えたのではないか、という意見もある。親子が一緒にいて良い関係ができたというプラスのケースもあるが、元々家庭に問題がある場合は逆に親子関係がまずくなることもある」と懸念を示す。
子どもからの”SOSのサイン”に気付いて
子どもは自分のストレスに気付きにくい。体の調子が悪くなったり乱暴な言葉遣いをしてしまったりと、心身に変化が出ているものの何がストレスになったかは気付きにくいそうだ。「子どもは自分の状態や感情を言語化するのが難しい。体の不調は心理的なストレスや学校・家庭でのストレス、いわゆる心理社会的要因が関係している。そのことに保護者や周囲の大人が気付くことが大事だ」と話す。▼食欲がなくなる▼食べ過ぎる▼生活リズムが悪くなる▼眠れなくなる▼起きられなくなる▼朝方、腹痛や頭痛がする-などの症状を訴えていたら注意してほしい。
まずは叱らず、話に耳を傾ける
子どもが出しているサインに気付いたら、叱らずに子どもから話を聞くことが重要だと中津さんは強調する。「朝起きられなかったりするのは、その子のサイン。親は『何でもっと早く起きないの』と叱りつけるが、そういう対応をするとますます悪くなる。一方的に非難してしまいがちだが、『最近、朝起きれないようだけどどうしたの』と話を聞いてほしい」と話す。
さらに大事なのが「親側の聞く姿勢、聞く力を高めておく」ということだ。子どもが自分から話し始めたとしても、話が終わりきらないうちに親が自分の意見や考えを出してしまう場合がある。そうすると、話をするのが得意ではない子どもも多いため、余計に話せなくなる。「子どもが9割しゃべって、親が1割言うか言わないか」が良いあんばいだという。
解決策を見つけるのではなく、子どもが話すこと自体に意味がある。「子どもが『こういうことがつらかった、困った』などとマイナスのことを言うと、親は『それはこうすればよかった』などとつい言ってしまう。そうすると、そう行動しなかった子どもが悪いみたいになってしまう。子どもの気持ちを聞いて分かってあげる。『そんなにつらかったんだね』『それは困ったね』と理解してあげるだけでいい。子どもはますますマイナスのことが言いにくくなるので、そこを注意しないといけない」。
物に当たったりするほどつらい気持ちを理解して
親子で一緒にお菓子作りをしたり1人で出掛けたりと、その子にとってのストレス解消法があることは良い。ただ、物に当たったりすることで気持ちを落ち着かせている子もいる。最近では自傷行為に走る子も多い。その場合も、まずは子どもの気持ちを理解することが必要だと中津さんは話す。「リストカットは10年ぐらい前に比べてがぜん多くなっている。自傷行為に走ったり物に当たったりするほどつらい、腹立たしい思いであるということをどれだけ分かってあげられるか。それが分からないうちに子どもの行動を非難すれば良くならない。そういう行動に出るほどつらい状況だと、親は分かってやらないといけない。周りに理解してあげられる大人がいれば行動は収まっていく」と指摘する。中津さんの所に相談に来る子どもは「学校の先生や親は自分のことを分かってくれない」と言う子が多い。ストレスの感じ方は人それぞれで、他の人がそんなこと?と思うようなことでも、本人にとっては大きなストレスになることもある。その子にとって何がストレスなのかを分かってあげることで、子どもがストレスと付き合う道が開けるという。
「メンタルヘルスを保つために、自分の気持ちや思いをきちんと伝える、聞いてもらうことが大事。友達でも親でも保健室の先生でも誰でもいいので、きちんと話ができる人にマイナスのことも聞いてもらう。自分の今のつらさや調子の悪さを自覚して助けを求められるといい。周囲の大人は非難したり叱ったりするのではなく、『体の調子はどう』『友達とうまくいっているの』などと声を掛け、いろいろと話をしてほしい」と呼び掛けた。