徳島市議会建設委員会は10日、市が前市長の遠藤彰良氏に約4億6千万円の損害賠償を求める訴訟を起こす議案を否決した。採決では出席した全7人のうち、黒田達哉委員長と退席者1人を除き、5人全員が反対した。16日の市議会本会議でも否決される公算が大きくなっている。

■議案 市が新町西地区再開発事業から撤退したことを巡り、地権者でつくる再開発組合が市に損害賠償を求めた訴訟で市が組合に支払った和解金4億1千万円と裁判の弁護士費用4878万2291円について、遠藤氏に対して損害賠償請求訴訟を提起するという内容。

■採決の結果【賛成】なし【反対】黒下広宣、土井昭一(以上公明)、見田治(共産)、増田秀司(無所属)、須見矩明(自民)【退席】本田泰広(朋友会)

■委員の主な発言は次の通り

土井氏「不正な目的をもって、自己の立場を利用して利益を得ようとしたのか。そこまでは判断するに至らない」

土井昭一氏(公明) 遠藤前市長に対して二つの裁判が行われた。一つは権利変換不認可としたことに対する訴訟(1)、二つ目は組合が起こした損害賠償請求(2)。1については「市長に裁量があるものと解するのが相当」と認められた。2で「信頼に反する違法な行為」があったと認定され、これについては高裁で2021年4月に和解が成立。徳島市は組合に4億1千万円の支払いを終えている。今回、徳島市が和解金等について遠藤前市長に訴訟すべきかどうかの賛否が議会に問われている。

訴訟議案に反対の立場を表明する土井氏(中央奥)=徳島市議会委員会室

土井氏 自治体の不法行為が認定された。それを個人に請求する。これはおかしいのではないかと感じている。損失補償として事業主体の市が負担すべきではないのかと考える。

 国家賠償法1条は、求償権については(公務員に)重大な過失がある場合に(国または地方公共団体は)提訴できるとしている。例えば、不正な目的をもって、また自己の立場を利用して利益を得た場合など。違法で重過失がある場合だ。今回の損害賠償請求の判決は民法709条に基づく不法行為、賠償責任を認めているが、求償権についての言及はされていない。

国家賠償法1条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

 公明党は議論を重ねてきた。遠藤前市長が補償の提案をしなかったことは無責任であった。これは十分反省すべきだと考える。しかし、当初(組合と)面談を行ったものの話し合いが決裂し、対話を進めることができなかったというのも事実だ。そこに求償権を行使する判断となる行為があったのか。不正な目的をもって、自己の立場を利用して利益を得ようとしたのか。そこまでは判断するに至らないと考える。代替案を話し合う環境も醸成できなかったと思う。

 市民には提訴に批判的な声が圧倒的に多いと感じている。市議会議員の立場として政治的判断を加味し、訴訟提起については反対という結論に至った。

見田氏「徳島市政上も全国的にも非常に恥ずかしい行為になる」

見田治氏(共産) 訴訟は大問題だと思う。「遠藤前市長に和解金を支払え」というのは、恐らく徳島市政上にも、全国的にも非常に恥ずかしい行為になると私は思う。先ほど公明党さんからもお話があったように、二つの裁判があり、(徳島市は)「一つにおいて違法性があると認められたから請求するんだ」と。こんなことをやったら、市長のなり手なんていなくなる。

「訴訟は大問題だと思う」と訴える見田氏(前列右)=徳島市議会委員会室

見田氏 市長が大きな裁量権を持っているのは明らかだ。しかし、圧倒的多数の市民世論を受けて白紙撤回をして、相手方との話し合いも全くしなかったわけではない。しようとしたが、十分な措置が取れなかった。その後、市長選で前市長は退いたわけだが、こんな措置を取るのは前代未聞でものが言えない。語ることもできないような内容だ。

 市会議員としても一市民としても、こんなやり方で市政を運営するのは、もう一度自ら振り返って見直していただきたい。訴訟についてはきっぱり取り下げるべきだと申し上げる。

本田氏「当時の職員に聞き取り調査はしたのか」理事者「していない」

本田泰広氏(朋友会) 求償権がいつ、幾らの額で発生したのか。地方自治法240条の「債権」の過程を説明してほしい。

都市建設政策課長 債権については、損害賠償請求の判決で徳島市に「信頼に反する行為」「不法行為」があったと認定され、損害賠償責任を負うこととなった。財政的損失を生じた以上、その原因となる行為者に対し、徳島市に何らかの求償権、損害賠償権が発生していないか検証し、徳島市として意思決定をすることにした。結果、7月2日、徳島市として遠藤前市長に責任があると判断し、賠償額を確定させ、責任の範囲を確定している。遠藤前市長の不法行為により、徳島市に損害が生じた。平成30年8月30日、組合が訴訟を提起した日が債権が発生した日となる。

本田氏 平成30年8月30日に求償権が発生している。ということは、当時の市長は遠藤さんだ。自分に対する求償権があって、市のトップとして市政を運営する。矛盾がある気がする。それが法律的な解釈なら致し方ないことだが。

 そもそもこの話が議論されるようになったのが、今年6月24日に出された住民監査請求の結果だ。監査結果では民法709条による損害賠償責任は認めているものの、請求人が主張する国賠法の適用は言及されていない。「求償権について判決上の根拠は存在しないと解するのが相当である」というのが監査委員の答えである。監査委員の意見には「前市長の責任について損害賠償請求の有無及び範囲等を精査すべきと考える」という言葉があったと思うが、今回、どんな「精査」をしたのか。

理事者側に質問する本田氏(中央奥)=徳島市議会委員会室

都市建設政策課長 徳島市の不法行為責任が認定され、財政的損失を出した。それにより、徳島市は求償権、損害賠償権が発生しないか検証した。判決が出てから徳島市の内部、また弁護士と協議し、判断した。

本田氏 遠藤前市長が「西新町から撤退」と言った後、何もしていない、代替案を提示していないという対応が不誠実であり、損害賠償請求という流れになっているのかと思う。前市長が当時の環境の中でできたか、できていないか、というのは私も当時一市民なので事情は十分把握できていない。しかし、市の職員が、ここにおいでる方も関わった方もいるかもしれないし、いないかもしれないが、庁内で同僚が当時どんな作業、対応をしていたのか。本当に何もしていなかったのか。そういう意見聴取はしたのか。

都市建設政策課長 当時の職員の聞き取り等は行っていない。ただ、遠藤前市長の対応は一審で主張していたはずだ。それでも損害賠償責任を徳島市が負うかたちになった。

本田氏「最終的にどうすればいいのか迷っている」

本田氏 私も最終的にどうすればいいか迷っている。本会議の最終日まで、答えを出すことは差し控えたい。

増田氏「訴訟費1559万円のほか、裁判費用は」理事者「弁護士の成功報酬は約2800万円」

増田秀司氏(無所属)(補正予算案に計上されている)訴訟費1559万円6000円の内訳を教えてほしい。

質問する増田氏(左端)=徳島市議会委員会室

都市建設政策課長 着手金1420万円、印紙代139万6000円。

増田氏 印紙代と着手金。可決され、訴訟になると、着手金に加え、別途弁護士費用が必要になるのか。それともこの金額で足りるのか。

都市建設政策課長 弁護士費用については、判決結果によって成功報酬が発生する。また、弁護士については事務手数料が幾らかある。

 

増田氏 訴訟に関してはこれ以上のものがかかってくるということでいいか。訴訟議案には当然反対するが、もし可決されて裁判になった際にトータルで幾らかかるのか。

都市建設政策課長 徳島市の訴えがすべて認められた場合、成功報酬として弁護士に約2800万円。認められなかった場合、成功報酬はない。

増田氏 敗訴すると追加費用はなく、この1559万円6000円のみ。言い方が悪いが、無駄になるということで理解していいか。

都市建設政策課長 遠藤前市長の不法行為があり、徳島市が訴える。徳島市に損害があった。「無駄」とは私どもは判断していない。

増田氏「絶対反対と表明する」

増田氏 訴訟に関しては絶対反対ということで表明しておく。

理事者「前市長は裁判に至る前に補償額を提示する必要があった」

都市建設部長 (会の冒頭で)土井委員が「話し合いが決裂して訴訟になった、重大過失行為があったのか、環境醸成ができなかったという状況もある」と話していた。前市長は組合員と4回、話し合っている。「代替案を持っている」と言っている。組合員は、白紙撤回するなら違う案、納得できる案が欲しいと考えていた。しかし、提示はなかった。また、前市長は「法的なものを補償する」と言っていた。「補償」という言葉を使うのであれば、裁判に至る前に組合に補償額を提示する義務があった。裁判を起こさなければ、少なくとも裁判費用の負担はしなくてすみ、遅延損害金の発生もなかったといえる。

 行政としてどうあるべきか、不法行為責任は免れないという裁判結果を踏まえ、弁護士とも協議をした結果だ。理解してほしい。

訴訟の正当性を主張する都市建設部長(中央)=徳島市議会委員会室

黒下氏「先の判決では求償権への言及ない。議案には反対」

黒下広宣氏(公明) 先の損害賠償請求の判決では、国家賠償法における故意または重過失のある求償権について言及されていないため、議案には反対をしたい。

土井氏(公明) (訴訟議案とは別に委員会に付託されている)訴訟費が含まれた補正予算案には賛成をしたい。訴訟議案には反対する。(内藤)市長が誠実に取り組んでいることを批判するつもりはない。市議会議員の立場でたくさんの市民の声をいただいた。その立場で、政治判断として採決に臨む。

 採決に加わらない黒田達哉委員長と退席した本田氏を除く5人全員が反対した。

採決で、賛成の挙手をする委員はいなかった=徳島市議会委員会室

動画:https://youtu.be/TJHCJMvIAjE