脱炭素から生まれるビジネスチャンスと地方創生

 SDGs(持続可能な開発目標)の目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成に不可欠とされ、近年、注目が高まっているカーボンニュートラル。世界中が脱炭素にシフトするなか、日本も2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする政策を掲げるなど、その取り組みは加速しています。企業にとって脱炭素がビジネスの必須条件になりつつある今、地方の中小企業もまた例外ではありません。
 そこでESG(環境、社会、企業統治)投資の第一人者で、著書「超入門カーボンニュートラル」で知られる夫馬賢治さんに、世界と日本の動きや今後の中小企業に向けたアドバイスなどをインタビューしました。

カーボンニュートラルをめぐる世界の流れ

 カーボンニュートラルとは、地球の気温上昇を抑えるために、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出分から、森林などによる吸収量を差し引いてプラス・マイナス・ゼロにすることです。気候変動問題の解決に向けて、2015年にパリ協定(地球温暖化対策の国際的な枠組み)が採択されて以降、今や世界140カ国以上の国が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げて取り組んでいます。
 世界において、気候変動はもはや環境問題というよりも、グローバル経済に大きな影響を及ぼす金融危機リスクといわれています。世界の金融界もカーボンニュートラルを意識するようになり、株価や金融政策、投融資の判断にまで影響が及んでいます。その流れに気づいたグローバル企業は、かなり早い段階からカーボンニュートラルに取り組んでいるのです。

あらゆる地域、産業で影響をまぬがれない

 世界から出遅れていた日本も、昨年10月に菅政権が「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表しました。その背景には、このままではグローバル経済の中で日本が取り残されてしまうという危機感があったからです。脱炭素は日本の産業を未来に向けて持続可能にするための取り組みでもあるのです。
 政府は、2050年カーボンニュートラルを実現するために、ほぼすべての業種を対象にした変革のロードマップを発表しました。具体的には、電力・エネルギー、自動車・バッテリー、物流・交通・土木インフラ、食料・農林水産業、住宅・建築・不動産、金融など広範囲にわたる業種で工程表が示されており、カーボンニュートラルを新たな成長戦略に位置づけています。特に地域における脱炭素社会の実現を盛り込んでいることから、地方の中小企業はもちろんのこと、農業、漁業などの第一次産業に携わる人も含めてすべての事業者が対象になります。

サプライチェーン全体に求められるカーボンニュートラル

 世界に目を向けると、グーグルやアップルなど数多くのグローバル企業が、自社だけでなくサプライヤーや取引先に対して脱炭素の姿勢を求めるようになっています。この流れはさらに加速し、日本の企業においても脱炭素が取引の必須要件になると思われます。すでに国内では顧客企業や調達先のサプライヤーに対して具体的なCO2排出量の削減目標を求めている会社もあります。
 将来的には、サプライチェーン全体で脱炭素の輪が広がり、あらゆる取引先を網羅した形で脱炭素が浸透する時代になるでしょう。今、大企業はその実施手法を検討している段階ですから、これから中小企業に要請が来るのは時間の問題です。

脱炭素時代を生き抜くために取るべき道とは

 視点を変えると、カーボンニュートラルは中小企業にとって大きなチャンスになり得ます。大企業の中には、カーボンニュートラル実現に向けて、取引先を柔軟に選定し、見直す動きが出てきています。脱炭素の取り組みは大きなアピールポイントとなり、従来の取引先から大いに歓迎されるのはもちろんのこと、新しい取引先を開拓するきっかけにもなるはずです。トップが動けば一気に変わるのが中小企業の強みです。速やかに方向転換できる機動力の良さをぜひ活かしてほしいと思います。

チャンスに変えるためにどう対応するか?

 脱炭素に取り組むには、まず「自社が温室効果ガスをどれくらい発生させているか」を数値で確認することから始まります。工場全体、あるいは部門ごと、工程ごとにどれくらい温室効果ガスを発しているのかを正確に把握しましょう。現状をどう変えていくのか、どういう技術が必要なのか、他業種と協力できる可能性はないか、そこを考えていくのが最初の一歩です。
 一番に検討するのが電源の転換ですが、多くの企業がどんどん再生可能エネルギーへの転換を進めています。EV導入に関しては、まだ日本では急速充電器が圧倒的に足りていないので現実的ではありませんが、いずれガソリンからEVへの転換が必要となってきます。
 これからの経営に若手の人材活用は欠かせません。SDGsや気候変動への意識が高い20~30代の人材を事業に参画させて、さまざまな会合や意見交換の場に送り出し、情報をインプットする機会を与えてみてください。柔軟な発想から新しいアイデアや事業創出のきっかけが生まれる可能性があります。最近では若手経営者を中心に、SDGsや脱炭素を基軸とした新技術やベンチャー企業がどんどん生まれています。

持続可能な未来と地方創生につなげるために

 政府の脱炭素ロードマップでは、再生可能エネルギーの普及や省エネ化に取り組む「脱炭素先行地域」を国内で100カ所つくる構想があり、先行地域には支援金が交付されます。国は離島や農村部など地域の特性に合わせた脱炭素対策を行うことを全面的に応援する姿勢を打ち出しています。今後は企業だけでなく、自治体も脱炭素のトレンドに乗れない地域は、企業誘致や競争力維持などの面で取り残されるリスクが出てくるでしょう。 
 まさに今、自分たちの暮らす地域の自然環境を見直し、うまく使いながら経済を回していくという、本当の意味での地方創生ができる時代がやってきました。皆さんの受け止め方次第で会社の未来、地域全体の未来が180度変わってきます。私たちは今、とてつもなく大きな時代の転換点にいます。それに早く気づいて動き始めた人にとってこれほど大きなチャンスはありません。

interview

夫馬 賢治 氏 ふま けんじ 株式会社ニューラル代表取締役CEO

 

サステナビリティ経営・ESG金融コンサルタント。東証一部上場企業や金融機関を数多くクライアントに持つ。環境省、農林水産省、厚生労働省のESG分野有識者委員。ハーグ国際宇宙資源ガバナンスWG国際委員も歴任。著書『超入門カーボンニュートラル』『ESG思考』『データでわかる2030年地球のすがた』他。国内外のテレビ、ラジオ、新聞、雑誌で解説担当。ハーバード大学サステナビリティ専攻修士、サンダーバードグローバル経営大学院MBA、東京大学教養学部国際関係論専攻卒。

 

SDGs(持続可能な開発目標)とは?
2015年の国連サミットで採択された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。
17のゴール・169のターゲットから構成されている。

SDGs Actionとは?
持続可能な社会が徳島から実現されることを目指して、2021年6月からSDGsについて、わかりやすく紹介しています。第5回は2022年3月掲載予定です。