子どもたちにとって、学校生活の楽しみの一つが給食だ。1954年に学校給食法が制定され、教育活動の一環として普及が進んだ。社交性や共同の精神を養い、食への理解を深めるなど、さまざまな目的がある。給食のない幼稚園や保育園を卒園して小学校に入学する子どもにとっては初めての体験となるが、新入生が給食を食べ始める時期は学校や自治体によって異なるようだ。「子どもが来春入学する小学校は給食の開始が5月と遅く、1カ月近く昼前に下校するので昼食の準備などが大変。祖父母に頼んだり仕事を早退したりしてやりくりしないといけない。入学式の翌日から始める学校とは何が違うのか」。徳島新聞「あなたとともに~こちら特報班」に、徳島市に住む女性からそんな声が寄せられた。給食開始時期の違いに何か理由があるのか。保護者や教育委員会を取材した。
GW明けまで昼前に下校 「無事に帰っているのか、ご飯を食べているのか毎日心配」
「入学式から1カ月近くも昼前に下校させられると、保護者の負担が大きい」。徳島市の40代女性は、3人の子どもたちが小学校に入学するたびに苦労してきた。女性が住む校区にある小学校は例年、新入生の給食開始が5月の初めで、それまでは午前中で学校が終わる。夫婦共働きのため、子どもは下校後、きょうだいや親が帰宅するまで1人で自宅にいる。一番上の子どもの入学時は学童保育クラブを利用しようとしたが、申請の締め切り前にもかかわらず「申し込みが既にいっぱい」と断られた。民間の学童は市設より利用料が高くなるため、近くに住む両親に面倒を見てもらったり、自身が仕事を早退したりした。
小学校に入ったばかりの子どもを何時間も1人にしておくのは心もとない。「無事に帰っているのか、ちゃんとご飯を食べているのか、毎日心配になる。昼休みに電話で安否確認している」と打ち明ける。子どもが遊びに出掛けて電話に出なかったときもあり、両親に様子を見に自宅へ行ってもらったことも少なくない。
昼食の準備が大変な上、子どもの体力面も気掛かりだ。学校から家までは距離があり、慣れないランドセルを背負って帰る頃には、おなかがぺこぺこになる。「『おなかすいた』と言いながら帰って来るのはかわいそう。昼食なしで帰ると余計に疲れてしまい、ストレスになってしまうのでは」と女性は心配する。
来春には一番下の子どもが小学校に進学する。また1カ月近く慌ただしい日が続くのかと不安になっていたところ、同じ徳島市でも学校によって給食の開始時期が違うことを知った。入学式の翌日に給食を始める学校もあり、「同じ1年生なのになぜ」と衝撃を受けたという。
女性は以前、給食開始時期が遅い理由を学校に尋ねたことがあった。学校からは「学校生活に慣れるまでは子どもが大変なので」と説明された。「他の学校の子どもはすぐ慣れて、うちの学校の子どもはなぜ時間がかかるのか。他の保護者も不満を持っているはずだ」
頼りにしてきた両親も高齢となり、以前のように面倒を見てもらうのは難しくなった。4月からはまた職場に頼み、定時で帰宅させてもらうしかない。子どもの世話をするためにいったん仕事を辞め、5月以降に再就職する友人もいるという。「共働きが当たり前の今の社会で、こうした学校の対応は時代遅れなのではないか。1週間でも早く始めてくれたら助かるのに」と望む。
同じ市内の学校でも3週間も違う? 「学校生活に慣れるまで」
徳島市教委によると、30ある公立小学校のうち、新入生の給食開始が本年度最も早かったのは、八万南、不動、一宮の4月16日(金)。入学式の9日(金)から1週間後に始まった。加茂名、国府、沖洲などの20校は19日(月)~30日(金)にスタート。残る佐古、福島、城東、助任、昭和、千松、北井上の7校が最も遅く、ゴールデンウイーク(GW)明けの5月6日(木)だった。
早い学校と遅い学校では3週間もの差がある。開始時期の基準を学校に聞くと、ほとんどが「学校生活に児童が慣れるまでの期間」を挙げた。
助任小の担当者は「GW明けに始めるのは例年通りで、新入生が学校に慣れるまでに2週間程度は必要。学校のルールを学び、人間関係にも慣れてから開始するようにしている」と説明。昭和小は「入学当初は慣れない学校生活でかなり疲れるので、早めに帰ってもらっている。例年GW明けで、PTA役員の了承を得てから開始時期を決めている。ここ2年は新型コロナウイルスの関係で慎重に判断した」としている。
徳島市の幼稚園には給食がないことや、家庭訪問などの学校行事も影響しているようだ。福島小は「4月は学校に慣れるための準備が多い。入学後は下校指導がしばらく続いた後、通常は午後から家庭訪問が入る。家庭訪問の開始時間と給食の終了時間を考えると、早期の開始は難しい。給食の準備を教えるのにもバタバタしていない時期が適している」と強調。コロナの影響で、家庭訪問を学校での個人懇談に切り替えた城東小も「個人懇談は昼過ぎに始まるので、給食を食べてからの実施だと慌ただしく1年生の負担になる」とした。
千松小は1年生が140人と、県内で2番目に多い(5月1日時点)。「1年生は4クラスあり、いろんな幼稚園や保育園から集まるので、子どもが学校生活に慣れるまでの時期を十分に取ってから始めている。家庭訪問を終え、子どもの個性も把握した上で、きりのいい月曜を開始日に選んでいる」と担当者。
一方、児童数が少なければ教職員の負担は減る。開始時期が最も早い一宮小と不動小は、いずれも小規模校だ。一宮小は「子どもの数が少ないので、早い時期から始められる」と指摘。不動小は「大規模校では配膳に携わる教職員が足りないこともあり、給食開始を遅くする学校が多い。うちは1クラスの児童が10人もいないので、担任だけで十分に対応できる」とする。そんな中、大規模校であっても4月中旬に始める学校は複数ある。1年生が100人を超える八万南小は、入学早々に給食を開始した。担当者は「4月に赴任してきたので分からないが、保護者から要望があったと思う。共働きも多く、昼ご飯を食べて帰ってきてくれたら助かるという家庭も多いのでは」とみる。
県内9市町では4月中に給食開始「給食に慣れることも大事」
徳島市以外の自治体でも学校によって開始時期に大きな差があるのだろうか。人口が2万人以上の10市町に確認したところ、新入生に対する給食の提供が最も早いのは入学式翌週の4月12日(月)。遅くとも4月最終週の26日(月)には開始していた。
- ・鳴門市 (13校) 4月12日に開始
- ・小松島市(11校) 4月15日に開始
- ・阿南市 (22校) 4月12~19日に開始
- ・吉野川市(11校) 4月19日~26日に開始
- ・阿波市 (9校) 4月14日に開始
- ・美馬市 (8校) 4月9日~15日に開始
- ・三好市 (4校) 4月12日に開始
- ・石井町 (5校) 4月19日に開始
- ・北島町 (3校) 4月15日に開始
- ・藍住町 (4校) 4月12日に開始
※()内は小学校数。本年度、1年生がいない学校も含む。
どの学校も児童が学校に慣れるまでの期間を考慮した上で、早めに給食提供を始めている。鳴門市は新入生の給食の開始日を市教委で決めており、「昔から入学式の翌日と決まっている」そうだ。本年度は入学式が4月9日(金)のため、週明けの12日(月)からになった。同市では幼稚園で給食を提供しているため、「給食の開始が早くて困ったことは特にない。給食を食べれば学校に滞在する時間が長くなるので、学校にも早く慣れるのではないか」という。小松島市の担当者は「入学早々から給食を始めるのは無理なので、何日かかけて学校生活に慣れてもらってから開始している。できるだけ早い時期に始めた方が家庭の負担は少なく、昼食を食べてきてくれたら助かると言う保護者も多い」。藍住町の担当者は「学校ごとにバラバラにする理由はない。給食に早く慣れてもらうことも大事」との考えを示した。
「保護者の声を把握した上で時期を判断」
こうした学校や自治体の対応を見ると、少しでも給食の開始を早くしてほしいという保護者の希望は、あながち無理ではないようだ。徳島市では、市教委が給食の献立を全て統一して用意しているが、新入生にいつから提供するかは各学校の判断に委ねられる。給食開始時期の差について、学校教育課は「学校の規模やクラスの人数によって、準備などにかかる時間が違う。家庭訪問でのアレルギーの把握や、行事の関係など各校で状況が違うので、一律にスタートすることは難しい。子どもが初めて自分で配膳して食べることはそう簡単ではない」と説明。「開始を早めてほしい」との要望があることに関しては「保護者の声を把握した上で時期を決めていると思う」と述べるにとどめた。