「子育てしやすい街」―。自治体がPRの際に最もよく使うフレーズの一つだ。人口減少問題が深刻化する中、全国の自治体が競い合うように子育て支援策の充実を目指している。各自治体がどんな施策を打ち出しているのかは子育て世帯の関心の的でもある。そうした施策が話し合われている場が地方議会だが、子連れでの傍聴を認めていない自治体がある。一体なぜだろう。

 3人の子どもを育てながらフリースクールを運営する阿南市の吉本真菜実さん(37)は一昨年、当時7歳だった長男を連れて阿南市議会の傍聴に行った。事務局職員から「議長の許可が必要」と言われて手続きしたが、「なぜ許可が?」と疑問に思った。

阿南市議会の議場。傍聴席に児童や乳幼児が入るには、議長の許可が必要だ=2020年

■ 「児童および乳幼児は傍聴席に入ることができない。ただし、議長の許可を得た場合は、この限りでない」

 阿南市議会の傍聴規則には「児童および乳幼児は傍聴席に入ることができない。ただし、議長の許可を得た場合は、この限りでない」という規定がある。事務局の対応はこの規定に沿ったものだった。

 こうした傍聴規則がある議会は珍しくない。県内24市町村議会と県議会の傍聴規則を調べると、児童や乳幼児を一般傍聴者と区別していないのは、小松島市、佐那河内村、県の3議会のみだった。ほかの22議会では児童や乳幼児が傍聴席に入ることを原則として認めていない。入るには議長の許可が必要だ。

 各議会に理由を尋ねると、多くは全国市議会議長会、町村議会議長会がそれぞれ定める標準傍聴規則に準じていると答えた。これらの標準規則は、各議会が規定をつくる際に参照するモデルだ。

標準市議会傍聴規則 12条 次に該当する者は、傍聴席に入ることができない。 1.銃器その他危険なものを持っている者   2. 酒気を帯びていると認められる者   3. 異様な服装をしている者   4. 張り紙、ビラ、掲示板、プラカード、旗、のぼりの類を持っている者  5. 笛、ラッパ、太鼓その他楽器の類を持っている者   6. 前各号に定めるもののほか、会議を妨害し又は人に迷惑を及ぼすと認められる者   

② 児童及び乳幼児は傍聴席に入ることができない。ただし、議長の許可を得た場合はこの限りでない。(参考)

 ほかに「議事の妨げや他の傍聴者の迷惑になる場合が考えられる」(阿南市)、「静粛にするなど議場の秩序を保つことができない恐れがある」(つるぎ町)など議事進行への支障を懸念する声や、「ケーブルテレビで中継されていることもあり、傍聴者自体が少なく、児童および乳幼児の傍聴希望もない」(三好市)といった回答もあった。

■ 全国では親子傍聴席も

 一方、全国では子連れで傍聴しやすい環境の整備に取り組む議会もある。群馬県太田市議会では2019年、乳幼児と児童の傍聴席への入場を認め、傍聴者に住所や氏名の記入を求めることもやめた。「住民に身近な議会を目指す取り組みの一環。市民からも好意的に受け止められている」と議会事務局職員は言う。鳥取県米子市議会や大阪府堺市議会などは、一般の傍聴席と区切った親子傍聴席を設けている。

 吉本さんは「『原則、だめ』という姿勢ではなく、気軽に傍聴できる雰囲気をつくってほしい。子どもも大きい声を出して走り回るわけではない」と話す。

 18歳未満は有権者ではないが、主権者だ。若年層の投票率が低迷する中、議会の傍聴は子どもにとっても意味がある。「息子も議会に行ったことは覚えている。自分の街の課題が公の場で話し合われ、知らないところで決まっているのではないということを目の当たりにする経験は大きい」と吉本さんは言う。

■ 地方議員は本来、ルールのつくり手

 早稲田大学マニフェスト研究所の長内紳悟招聘(しょうへい)研究員は「子連れ出勤ができる会社もあるなど、社会は子どもの声に寛容になってきている。主権者教育の重要性も認識されるようになった。原則禁止にしている議会は、そうした社会の変化を認識していないのではないか」と指摘する。

 原則禁止としている議会の事務局職員からは「議長が許可しないことはない」という声も聞かれた。そうであるならば、こうした規定は要らないのではないか。

 地方議会に期待される本来の役割は、地域に合わせた条例などのルールを策定し、目指す社会の在り方を提示していくこと。「議員はルールをつくる側の人たちだが、自分たちのルールについての認識が低い。標準傍聴規則に倣うのではなく、自分たちの街をこうしていきたいという視点でルールをつくる姿勢が必要だ」と長内招聘研究員は強調する。

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