アートと防災。このふたつの事柄をテーマに近年、活動しているのが徳島市出身の現代アーティスト・パルコキノシタさん=宮城県石巻市在住=だ。「アートの力で人と人をつなぐことで、災害を乗り越えられる」。そう信じるパルコさんが、アーティスト仲間とともに企画した現代アート展「芸術ハカセは見た!~芸術の四国遍路展」が25日から、徳島市の徳島城博物館で開催される。四国4県のアーティストに参加を呼び掛け、四国の巡回展として開催する。スローガンは「アートの力で四国をひとつに」―。
きっかけはパルコさんが2020年10、11月に四国霊場八十八カ所を巡礼したことだ。「東日本大震災の犠牲になった方の供養をするため、四国巡礼をしたいと思っていた」と言うパルコさん。東日本大震災発生後、東京から宮城県に活動拠点を移し、被災者を対象にアートのワークショップを実施するなど、復興支援をしている。
パルコさんは言う。「被災地で僕が出会ったのは、津波にすべてを流され、みんなとバラバラになって仮設住宅などに住んでいる高齢者の人たち。近所づきあいを始め、人間関係が失われているんですね。そういう場で、おじいちゃんやおばあちゃんに絵を教える、みんなで楽しめるものづくりをする、ということをやってきた。表現活動ってコミュニケーションを生むんです。例えば、おばあちゃんが作品をつくる。『孫にプレゼントしよう』と言う。ひとりぼっちの人をつくらない。そういうワークショップをずっとやってきた。宮城県内で100回ぐらいワークショップをやりましたね」
巡礼の中、徳島にも思いをはせた。「南海トラフ巨大地震は広範囲に被害が起きる。支援はすぐに徳島など四国に来ないかもしれない。でも、四国内で人と人とのつながりがあれば乗り越えられることもあるんじゃないか」。各寺に貼られている「四国はひとつ」というメッセージに、心がひかれた。
一方で、巡礼中に出合ったアートにも強い衝撃を受けた。「かかしアート群に遭遇したり、いきなり鎌倉時代の建築が出てきたり、面白いレトロ看板を見つけたり。僕には遍路道そのものがアートに見えたんです。四国のオルタナティブアートのすさまじさを感じて、これは放ってはおけないなと感じたんですよね」
「アートの力で四国の人々をつなごう」。そう思い立ったパルコさんは4県でアーティストを探した。見つけたのは実に多様で豊かなアーティストたち。「お金のためにやっていたり、美術業界で権威があったりという人たちではなく、ただ面白いからやっている。そんな『オルタナティブ』なアーティストたちがたくさんいたんです」
例えば、高知市在住のアーティスト石井葉子さんは、岡山県の犬島をモチーフにしたアートプロジェクト「妖怪イヌジマ」を展開している。銅の精錬所跡地から出る黒い砂を瞳に埋め込んだ立体作品「妖怪イヌジマ」は、鑑賞者が「里親」となり、自宅に持ち帰ることができる。犬島の歴史に思いをはせたり、人間社会と神話の関係を考えたり、鑑賞者が「妖怪イヌジマ」からそれぞれの物語を紡ぐ。
松山市の神山恭昭さんは愛媛新聞にも連載をもつ絵日記作家。絵画や彫刻などにも取り組み、その独特の世界観を好むファンも多い。
「20代から70代までの作家が生む、『これぞ多様性だ』という展覧会になると思います」とパルコさん。ただ、現代アートの作品を受け入れ難いと思う人もいるかもしれない。「『これもアートなの?』みたいなものもあるかもしれません。でも、拒絶や排除するのではなく、まずは受け入れてみる。そこが始まりですよね」。
また、人間同士の関係も、「絆」と呼べば美しいが、実際には悩みの種ともなる。「アーティストも例外ではないんです。外から見ると、みんな仲良くやっているように見えるかもしれないけれど、けんかのないグループ展を見たことがありません。僕もこれまでに友達をなくしている。だからこそ今回は仲良くなることそのものが作品になると考えています」
アートによる小さな人の輪。パルコさんはこれがどんどん大きく広がり、強くなっていくことを願っている。「アートの輪が、いざというときには助け合える社会につながる。僕はそう思っています」。
■ info
「芸術の四国遍路展 徳島編」 1月25日~2月 2 日 於:徳島城博物館
他県への巡回など詳細は「芸術の四国遍路展」公式ウェブサイトへ
■参加作家
徳島ゆかり 金藤みなみ/富松篤/早渕太亮 香川ゆかり あんどさきこ/天歌布武信長/ミズカ 高知ゆかり 石井葉子/ミヤタケイコ/柳本悠花 愛媛ゆかり 海野貴彦/工藤冬里/神山恭昭 主催 任意団体「芸術ハカセは見た」 (代表・パルコキノシタ)