海外での和食ブームを背景に、日本酒を輸出する徳島県内の酒造・酒販会社が増えている。県によると、少なくとも7事業者が欧米や中国などに輸出しており、輸出額はこの5年間で倍以上になった。人口減少や健康志向によるアルコール離れなどで国内市場が縮小する中、成長する海外市場に目を向けて販路拡大に取り組んでいる。
日本酒の輸出は、海外に日本食レストランが増えたことや、訪日客の増加で外国人が日本酒に触れる機会が増えたことなどが追い風となっている。県もうかるブランド推進課によると、県内事業者の輸出額は統計のある2012年度の1650万円から、16年度は3913万円に増えた。17年度も前年を上回る見込みという。
1997年、県内の他業者に先駆けて米国へ輸出を始めた本家松浦酒造場(鳴門市)。著名なニューヨークのソムリエから「フランス料理に合う」との評価を受け、普及した。
日本貿易振興機構(ジェトロ)の商談会にも参加し、現在は米国をはじめ香港、台湾、中国、オーストラリア、英国など15カ国に15~16銘柄を出荷。海外での売り上げは2012年から17年にかけて倍増している。
今年9月にはドイツに初輸出する計画もある。10代目蔵元の松浦素子さんは「国内人口が減少する中、輸出やインバウンド(訪日外国人旅行者)に向けた戦略を考えないといけない」と話す。
棚田で栽培したコメで造った日本酒を販売する高鉾建設酒販卸事業部(上勝町)は16年末から、ニュージーランドとオーストラリアに輸出している。
ニュージーランドにある日本食卸会社の担当者に同行して飲食店を回り、直接価格交渉して売り込んだり、日本食のPRイベントに参加したりと、こまめに現地での販促に取り組む。酒井荘吏マネジャーは「顔を突き合わせて思いを伝え、関係を築くことを心掛けている」と言う。
パッケージも、英語表記を加えた名称とシンプルなデザインに更新してアピール。現在、両国の飲食店40店以上で扱われ、17年度の月平均出荷量は100本(720ミリリットル瓶)に上る。
15年秋から中国に輸出する齋藤酒造場(徳島市)では、毎年、出荷量が前年比で倍増している。中国の業者が同社のホームページを見て依頼してきたのがきっかけだった。今年4月には初めてオーストラリアへにごり酒を出荷した。
齋藤智彦社長は「海外の市場はさらに伸びるのではないか。県や酒造業界が一丸となって地酒を発信していく必要がある」と話す。
輸出を支援するジェトロ徳島は「現地のニーズや食文化に合わせて売り込むことが大切。バイヤーは目新しい商品を探しており、スダチやユズなどを組み合わせることで効果的に提案できる」としている。
〈日本酒の輸出〉 2017年の輸出額(財務省貿易統計)は186億7900万円と8年連続で過去最高を更新し、07年の70億4800万円から約2・6倍になった。輸出先は米国(32%)、香港(15%)、中国(14%)、韓国(10%)など。政府は日本文化を世界に売り込む「クールジャパン戦略」の一つに位置付け、海外での情報発信やブランド化、販路拡大支援などを強化している。