初回のコラムで、上勝町の今のごみ政策をこのまま続けていいのか、とためらう気持ちを書いていましたよね。45分別をしてリサイクルを目指すのは「先端ではない」という話もありました。お年寄りも苦労している、と。分別してリサイクルするのは良いことではないんでしょうか?ちなみに告白すると、記者は毎日、紙コップ入りのコーヒーを(何杯か)買ってしまっています…。東さんはこういう、買わないんですか? 

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2週間に1度、ごみを車に積んで「ごみステーション」へ

 分別について話す前に、まず上勝町のごみ出しの仕組みを紹介したい。町にごみ収集車はなく、私たち町民は車にごみを乗せて、町内に1箇所だけの資源回収拠点「ごみステーション」にごみを持っていく。わが家は大体、2週間に1度くらいのペースで持ち込む。パッケージなどのプラスチック容器包装類が入った45リットル袋約1袋分と、空き缶や牛乳パック、トレー、瓶などいろんな種類のものが入ったコンテナを2つ、そして焼却ごみと汚れたプラスチック類(上勝町では「廃プラスチック」と呼ぶ)をそれぞれレジ袋1つ分ほど。それらすべてを車に積み込み、持っていく。

 ごみを車に載せることに抵抗はあるだろうか?基本的にごみは洗って乾かしているので、素材に近い状態だ。また、生ごみは各家庭で堆肥化することになっている。だから、気になるような匂いは少ないし、ごみステーション内でも匂いはしない。ごみステーションに併設された新しいコミュニティスペースでミーティングすることも最近は増え、そのついでに、ごみを持っていくようにしている。

 家では10種類程度に分別しているごみを、ごみステーションでより細かく分別する。

2020年に新設された「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」。ごみステーションの他、コミュニティホールやラボ、ホテルなどが併設されている

リサイクルで町に年間250~300万円の収入

 このように分別を徹底し、リサイクルできる資源として回収すれば、燃やすごみの量も、輸送と焼却で発生する温室効果ガス(以下GHG)も減らせる。「混ぜればごみ、分ければ資源」と言われるように、リサイクルに回ったものは資源としての価値が生まれる。上勝町の場合、コストカットにもつながっている。上勝町が全てのごみを焼却・埋め立て処理した場合、今の処理費の約6倍がかかるという試算がある。紙や金属などのリサイクルで得られる収入は年間250〜300万円に達する。

家で45分別しているわけでなく、コンテナ等にまとめてごみステーションに持ち込み、より細かく分けている

 人の手で分別することにも意味がある。自分がどんなごみを、どれくらい出しているかが一目瞭然になるからだ。そして日常では感じることが少ない「環境に貢献している」という気持ちを持てる場でもある。(こんな例えはちょっと変かもしれないけれど、ごみステーションで自分でごみを分別することは神社に参拝に行くのと似ている気がしている。即効性はないかもしれないけれど、ご利益があるようにと取る行動。)

モノサシを変えると最適解も変わる

 しかし、私は前回の記事で「上勝町で実施している45分別のリサイクルは既にベストな方法ではない」と書いた。なぜか?

 上勝町ではこれまで、「より良くリサイクルできる」方法を選択してきた。その結果、分別数は45種類にまで増えた。「焼却・埋め立てごみ」にせず、「リサイクルできるかどうか」というモノサシで測ってきた結果である。しかし、違うモノサシで測れば、必ずしも45分別が最適解ではないことが見えてくる。

 リサイクル技術はここ数年で向上した。光学選別機が導入されている処分場もある。分別しないままのごみを機械が勝手に分けてくれる。人の手で分けるよりも、より正確に選別することができ、クオリティの高い資源を回収できる。

 また、上勝町ではごみを洗って乾かしてから、ごみステーションに持ち込む。しかし、生活排水が直接川に流れてしまう場所もまだまだ多い中、ごみを洗った水が引き起こす川の汚染の問題も指摘される。

 各家庭がごみをそれぞれの車に乗せてごみステーションまで持ってくるよりも、電気自動車の回収車を走らせた方が、ガソリンを削減し、町全体で見た時に、GHG排出抑制に貢献できるかもしれない。

 しかし、仕組みを変えれば環境負荷は減るかもしれない一方で、財政負担は増える可能性もある。

 絶対的な正解は存在しない。どの視点に立つかによって見えるものは違う。必要なのは、さまざまな人との対話により、「何を優先するか」について合意を生むことだ。

本当に、どうしようもなく難しいこと

 上勝町では30年ほど前まで、ごみを野焼きしていた。しかし、法規制などにより、町内で焼却処理ができなくなった。このとき、「何を優先するか」をみんなで考え、出てきたのが「ゼロ・ウェイスト宣言」だった。未来の子どもたちにきれいな空気や水、豊かな大地を継承したいという願いがあった。また、ごみを焼却処理する場合、運搬と処理費用の財政負担も大きくなる。「お金を払って焼却する」方法もある中で、目指すことにしたのは、リサイクルで焼却・埋め立て処分するごみをゼロにすることだった。

 さて、これから。上勝町は何を優先するのか。より多様な人たちと、多角的な視点から話し合いたい。素材メーカーや廃棄物処理業者、アーティストら、様々な立場の人たちと協議し、環境負荷と住民負担、豊かさの観点から、上勝町としての基準や分別方法をいま一度、見直したいと考えている。このプロセスを経て、上勝町として、大事にしたいことが見えてくると思っている。

 ただ、「何を優先するか」について合意を得るのは、本当に、どうしようもなく難しい。

コーヒーはセラミックコーヒーフィルターで淹れてコップで飲む。ごみも出ないし、後処理も簡単だから

 個人の行動について考えてみれば分かりやすい。私の場合、365日のほとんどを上勝町内で過ごしている。家でもオフィスでも飲み物はコップで飲んでいる。徳島市内に出る時はタンブラーを持ち歩いているし、コーヒーが飲みたければカフェに入る。ペットボトルに触れる機会がない。ストイックで意識が高い生活を送っているように聞こえてしまうかもしれないが、私にとっては単純にそれが楽なのだ。

 しかし、人によって状況はまるで違ってくる。毎日オフィスで紙コップに入ったコーヒーを飲むことを習慣にしている人たちに「環境のために、ごみの削減を!」と呼び掛けたり、「こちらの方が楽だよ」と提案したりしたところで、価値観の押し付けになるだけのような気もする。相手がどんな生活を求め、何を優先しているかを無視すれば、ただ分断と対立を生むだけだ。どこかに良い解決策はないものか…。常に、頭を悩ませている。

東輝実(あずま・てるみ) 1988年生まれ。上勝町出身。関西学院大卒業後、町へ帰郷し、夫らと合同会社RDNDを設立し、カフェ・ポールスターを経営。NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー事務局長を経て、現在は仲間とともに上勝町で滞在型教育プログラム「INOW(イノウ)」を展開している。

東さんのコラム「Rethink 上勝町のゼロ・ウェイスト」は毎月第3金曜日に公開します。