元大リーガー・松井秀喜さんが高校生の時、相手投手に5打席連続で敬遠されたのは、甲子園の語りぐさである。1992年の夏。新聞やテレビで論争を呼び、社会問題にもなった

 小欄の筆者は駆け出し記者の頃。卑劣だ、正当な作戦だと評するより何より、試合を見てよぎったのは「ドカベンと同じだ」という驚きだった。人気漫画「ドカベン」で、主人公の山田太郎は、松井さんより15年も前に5打席連続敬遠されていたのだ。漫画が現実になった衝撃は、今も忘れられない

 週刊少年チャンピオンで46年続いたドカベンが、連載を終えた。人気絶頂だった70年代後半、スポーツの花形といえば野球だった。野球漫画も百出だったが、ドカベンの人気は抜きんでていたように思う

 どう猛な土佐犬を使った走塁練習、こまのように体を高速回転させる打法・・・。そんなバカなと突っ込みたくなる場面があるにはあった。でも打者の手前で球が消える「魔球」のような、従来定番だった極端な絵空事はない。現実的ゆえに幅広く支持されたのだろう

 山田太郎の明訓高校は甲子園で一度だけ敗れたことがある。試合後に準主役の「葉っぱの岩鬼」が口ずさんだ歌が先月死去した西城秀樹さんの「ヤングマン」だった

 昭和後期に輝いた漫画と歌手。同じ年の幕引きに不思議な巡り合わせを感じる。