「署名活動が実施されたこと、選管提出にまで至っていること、信用されない市役所になっていることについて、この場で市民に対して説明を」―。10日の徳島市議会本会議代表質問で、内藤佐和子市長に対するリコール(解職請求)運動に賛同する自民党市議団の山本武生氏が、7万筆を超える署名が市選管に提出されたことについて内藤市長に説明を求めた。内藤市長は「長の解職請求は地方自治法に基づく住民の権利。今後の状況を粛々と見守っていく」などと従来の見解を繰り返した。一方、7日に公開されたYouTube番組内で、内藤市長はリコール運動について「政治闘争によるもの」との認識を示している。山本氏はこの発言を取り上げ、「市民の権利行使を『一部議員による政争』と言い捨てるのは、政治に携わる者としては『下の下』と言わざるを得ない」と厳しく批判した。
討論の要旨は次の通り。
山本氏「署名が選管提出にまで至っていること、信用されない市役所になっていることについて、市民に説明を」
山本氏 内藤市長の政治姿勢について伺う。1月27日から2月27日までの1カ月、内藤市長に対する解職請求署名活動が実施された。この1カ月、大変多くの市民から意見を聞いた。この意見を放置するわけにはいかないので、このたびは解職請求署名に絞って質問をする。
3月4日、署名が7万1530筆集まり、法定数の7万660筆を超えたため、市選挙管理委員会に提出された。内藤市政に対する市民の意思が表面化した結果だと思う。
保育施設整備の独善的撤廃、市民との対話の約束を「対話とかできますか、逆に」と言い放つ無神経さ(注:NHKによるインタビューでの発言)。阿波踊りの強行開催やキョードー東京との契約の身勝手な破棄、国のコロナ対策費を使ったLED城、徳島都市開発への20億円もの低金利融資、木工会館関係者との無対話、上下水道局庁舎建設工事での最高額提示業者による落札、300人の小ホール建設のための市社会福祉センターおよび中央公民館の解体、度重なる人事異動、予算不足を理由にした放課後デイサービスの一方的な提供日数削減…。
そして何よりも、コロナ禍で市民が疲弊する中、「財政が好転した」として自身の給与を公約の50%減から15%減にする議案の提出。これは最悪だ。否決すれば満額に戻り、可決すれば15%減。どちらにせよ公約の「50%減額」という市民との約束をいとも簡単に破るものだった。ただでさえ賞与は全額支給で、そもそも給与50%減額の約束は破ってはいたのだが。ご自身のことなので、いつでも50%減にする議案を提出できるにもかかわらず、その後、一切出さない。記者会見では「公約に入っていましたか」と言ってしまう始末(注:正確には「選挙公約は50%カットだったんですか。財政状況が好転するまで、ですよね」と発言)。
感染症の影響が緩和され、景気の持ち直しが期待されることから市税の増収を見込むとして、令和4年度予算案を作成している。「基金の取り崩しは最低額」と言うが、給与50%減額をやめるときは、基金の取り崩しがないことを強調していたはずだ。本来ならこんなときこそ基金を取り崩してでも感染症対策をすべきであるが、今後の対応については無策無言。そんな姿勢が招いた署名であったと思う。
署名活動の中、市民から「署名したいができない理由」を聞いて驚いた。「署名したら何をされるか分からない」「署名をすると仕事に支障が出る」「ある方に署名をするなと言われている」「今の徳島市は何をするか分からないから署名をして名前を残したくない」など、「徳島市が信用できない」という意見を、市長選で内藤市長に投票したという人を含む本当に多くの方から聞いた。行政を預かる市長として最悪だ。
正常な自治体であれば、「役所がすることだから間違いない」となる。市民から信用されない市役所では円滑な行政運営ができない。
このようなことを突きつけられた市長として、所信表明では全く触れられていなかったが、現状について市民に対して誠意ある説明を行うべきだ。この署名活動が実施されたこと、選管提出にまで至っていること、信用されない市役所になっていることについて、この場で市民に対して説明を。
内藤市長「リコールは住民の権利。粛々と見守っていく」
内藤市長 今回のリコール署名活動への私の受け止めについては昨日、宮内議員にも答弁したが、まず、長の解職請求は地方自治法に基づく住民の権利として実施できる制度であり、今回の署名集めの結果については承知している。署名簿は市選管で審査中であり、今後の状況を粛々と見守っていく。
その上で、現在、市政には課題が山積しており、特に県内ではコロナ感染者が高止まりするなど厳しい状況が続く。私自身はこれまでの会見で申し上げたとおり、コロナ禍への対応、中心市街地活性化、子育て支援の充実、防災減災対策の推進、阿波踊りの継承発信など市政の重要課題にしっかりと取り組み、市民の成果実感につなげることが自らの責務と認識している。
今後とも市民の皆さまの意見や評価を受け止めながら、政策の意義や必要性を理解いただけるよう、市議会の場、広報媒体を活用し、説明や発信に努めていきたい。
また一点、事実の共有をしたい。2月6日、山本議員はフェイスブックにこのような投稿をしている。
「署名活動は、内藤市政の約2年間を市民が再評価できる住民投票をするためのもので、市民の権利です。内藤市政が良いと評価する方、悪いと評価する方、各々の意思を市政に直接届けるための制度です。内藤市政に賛同の方も反対の方も、ぜひ、署名をいただき、住民投票を実施し、投票に行きましょう」
加えて、リコールの会の街宣車も同様のことをスピーカーで流しながら走行していたことを申し添える。
今後とも市民のための市政運営に邁進していくことを申し添え、答弁を終える。
山本氏「市民の権利行使を『政争』と言い捨てるのは、政治家として『下の下』」
山本氏 説明にはなっていない。私のフェイスブックの紹介をありがとうございます。続ける。
現在、市選管職員や応援職員により署名の確認作業が行われている。市民の大切な意思なので、慎重に行っていただければと思う。不備や重複があり、削除される署名も出てくるかもしれない。しかし、万が一法定署名数に至らなかったとしても、この署名は非常に重い市民の意思だ。初問でも申し上げたが、署名したくても署名できないという人が本当にたくさんいた。そうした人が署名をしていたら10万筆に達したかもしれない。市長はもちろん議員、職員においても、この市民の意思を簡単に考えることは絶対してはいけない。
3月5日の徳島新聞に「リコール署名・市政不信は根強い」との社説が掲載されていた。「有権者が21万人超の徳島市で選管提出にこぎつけたのは異例だ」とし、「今回の署名数は、一昨年の徳島市長選で内藤市長が得た4万1247票を大きく上回る。内藤市政への不満と不信は相当強いといえる。市長就任から2年もたたないうちにリコール運動が起き、ここに至ったことを、内藤市長は深刻に受け止めるべきである」と締めくくっている。その通りだ。今後の市長の一挙手一投足を市民が厳しい目で見ている。
さらに(7日に公開されたYouTube番組で、内藤市長が出演して語った内容について)、SNSで流れている内容であるので、あまり言いたくないし、すべて見る気力もなかったので多くは申し上げないが、内藤市長ご自身が語っているので一言申し上げる。
ご発言の最初に、この署名活動があたかも政争によるものだと受け取れるような発言があった。本当にそう考えているのであれば、市長としての質はないと言わざるを得ない。この署名活動は、市民が中心となり、市民の権利行使をしている。民主主義下において大変尊い活動だ。それを「一部の議員がやっていること」「政争が招いたこと」と言い捨てることについては、政治に携わる者としては「下の下」と言わざるを得ない。
ご自身が今、置かれている立場がどのようなものであるかを十分熟考、自問していただきたいと申し上げて、質問を終える。
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内藤市長のYouTube番組内での発言とは?
3月7日に公開されたYouTubeの番組内で、インタビュアーからリコール運動について問われた内藤市長は、「前市長の与党だった人たちからメインでリコールされている」と話し、リコール運動の主因は政治闘争であるという認識を示した。現状を「政治闘争の末期症状」とも評している。
内藤市長は「(徳島は)もともと政治闘争が激しい」と前置きし、「自民党も、この前(衆院選徳島1区で)落ちた後藤田(正純)さんと、後藤田さんじゃない派に分かれている。市議会は、後藤田さん派の自民党と共産党市議団がくっついて、前市長の与党だった。つまり今の野党。その人たちがずっと何をするにしても批判ばかり」と説明し、リコール運動の主体となっているのは遠藤彰良前市政での「与党議員」との認識を示した。現状については「政治闘争の末期症状なのかと思う」と評している。
総務省の「地方自治月報」によると、2007年度から17年度に署名数が法定数に達した12件のリコール運動では、独断的な政治姿勢が請求事由とされた例が多い。一方で、内藤市長は過去のリコール運動について「何期も市長や知事をやって、選挙やっても勝てないからリコールを起こすというのは結構ある」とし、政争が主因となっているという認識を示した。
そのほか、保育園整備補助事業の大幅縮小、コロナ下での阿波踊り開催、徳島都市開発への融資について言及し、市の従来の主張を繰り返している。