洗濯物が飛ばされる、差している傘が裏返る、自転車をこいでも進まない…。そういう経験をしたことがある人も多いのではないだろうか。台風などの影響で全国どこでも強風に見舞われることはあるが、とりわけ徳島は日頃から風が強いと言われているようだ。SNSでもそういう書き込みを度々目にする。本当に徳島は風が強いのか、何か理由はあるのだろうか?
「徳島の人はそれが普通だと思っているかもしれませんが、全国的に見て風が強いんです」と話すのは、徳島大大学院社会産業理工学研究部の長尾文明教授。風工学が専門だ。毎年7月初め頃に新入生向けの授業を行っているが、その頃には県外からの進学者のほとんどが強風で傘を1本は折っているという。
長尾教授自身も、京都の大学院に進むまで徳島の風の強さを意識したことはなかった。「京都はあまり風が吹かないんだ」と思っていたが、全国の気象台の記録を比較したところ、徳島は他の地域よりも平均風速や台風時の風が強いと知った。
はっきりとした理由は分からないが、徳島の風の強さには地理的要因があり「紀伊半島と四国の形から淡路島の方に吹き込みやすくなっている」と長尾教授は説明する。
風は気圧の高い所から低い所に向かって吹く。反時計回りの低気圧がフィリピン海側から北上した場合、四国の中央を走る四国山地や紀伊半島にある紀伊山地に風がぶつかり、淡路島方面に吹き込む風が強くなる。川の流れで、川幅が狭くなると水が集まり速くなるのと同じだ。「広い所から狭まってきて瀬戸内海に流れ込む大きい流れができてしまう。その影響で徳島鳴門方面に吹く風が強くなっているのではないか」と推測する。
さらに、徳島には東西に流れる流域面積3750平方キロメートルの吉野川がある。風の強さは丘などの地物や建物の影響で変わるが、川の上は障害物が少ないため強くなるという。
一般的に夏は比較的風が弱いが、冬場は強い。西高東低という冬型の気圧配置の影響で、北風や北西の風が強く吹く。「徳島の場合、瀬戸内海が西から東に開けているので瀬戸内海に沿ってやってくる風があって、讃岐山脈もそんなに高くないので、そのままの威力で北西や北から強い風が来ているのだろう」と話す。
徳島で風が強い理由は分かった。何か気を付けておいた方がいいことはあるのだろうか。長尾教授は、やっかいなのは「風速差」だという。「ずっと同じ強さの風であれば対応できるが、強くなったり弱くなったりするので、その風速差でやられる。風速5mの弱い風でも、傘が裏返るなどの影響を受ける可能性はある」と話す。建物の周辺では、建物に当たって上下左右に分かれた風が側面から回り込む際、風が強くなるため注意してほしい。
長尾教授は、竜巻注意情報も日頃から気に掛けておいた方がいいという。「『竜巻が起こったことがないので大丈夫』と思っているかもしれないが、もしものときのために気象庁のHPなどで発生地域や進行方向を確認してほしい」と話す。普段は風が強くない地域でも、台風の進路や風向きが変われば被害に遭う可能性はある。台風や竜巻では、割れた窓ガラスでけがをして亡くなった人もいるという。「カーテンを閉めておくだけでも飛散を止めてくれる。窓ガラスの防災フィルムを貼ったり、普段から窓際で生活しないなどできる対策を取ってほしい」と呼び掛けた。
普段あまり気にとめていなかった“風”だが、徳島ならではの事情があることが分かった。進学や就職で今春から徳島で新たなスタートを切る人も多いだろう。地域の特性を知ってうまく付き合い、快適な生活を送ってほしい。