四半世紀も前の話を思い出した。町議選の取材は初めてだったから、特に記憶に残っている
地元の選挙通に情勢を尋ねると、まずは親類の数から解説が始まった。そんなことか、と期待外れではあったが、県西の小さな町で有権者も少ない。理解できなくはなかった。そんなことが、と耳を疑ったのは続く説明である。「あの人は強いよ。いい所に住んどる」。いい所とは何だと聞くと、地形だという
地盤としている地区は奥まった場所にあり、通じている道路は1本。ここを押さえれば、他陣営の運動員が入り込めない。「昔は夜通しかがり火をたいて、張り番もしとったよ」。当然のごとく金品が飛び交った、かつての選挙模様である
無投票となった2015年の神山町議選を巡り、公選法違反(買収)の疑いで、正副議長をはじめ5人が逮捕された。町議1人が任意で県警の調べを受けている。立候補を取りやめた見返りに、現金50万円を渡したとされる
時の流れは所によってまちまちらしい。容疑が事実なら、「空飛ぶ車」も実用化されようかという時代に、かがり火をたいていたころと、さして変わらない選挙が行われていた
時代の速度が上がった今、時のよどみをさまよっているような議会では、町の抱える課題に対処するのは難しかろう。古い上着を脱ぎ捨てる頃合いだ。