熊本県益城町で避難所となった町総合体育館の駐車場に並ぶ車。熊本地震では車中泊が相次いだ=2016年5月

 「余震が怖い」「避難所が快適でない」―。2016年4月に起きた熊本地震では、そんな理由で車中泊をする人が相次いだ。上勝町のNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーで働いた経験のある熊本県西原村の藤本延啓(のぶひろ)さん(51)=熊本学園大講師=も車中泊を選んだ一人。当時、生後4カ月と3歳の子どもを抱えて被災した。当時を振り返ってもらった。

 2016年4月16日午前1時25分、熊本県西原村。就寝中だった藤本さんは大きな揺れで目を覚ました。停電で辺りは真っ暗。生後4カ月と3歳の子どもを守らなければと、妻と一緒に覆い被さって揺れが小さくなるのを待った。

 余震が続く中、食料や水、着替えを積んだ車2台で近くの河原小学校へ。グラウンドに着くと、消防団が交通整理をしていた。指示に従って車を止め、車中で就寝した。「校舎や体育館は壊れていませんでしたが、小さな子どもがいるため、中での滞在は選びませんでした」。起きると、グラウンドは車でいっぱいだった。

オンラインで取材に応じる藤本さん

 体育館は指定避難所になっていたので、そこで食料を受け取ったり、情報を得たりできた。「地域の小学校なので顔見知りもいる。体育館に入っても幸い、不審者とは思われませんでした」

 17日になって避難所の世話役の人と話をすると、「今後の見通しがまったく立たない」と分かった。車中泊は2泊で切り上げ、妻の実家がある上勝町に家族を避難させるため、車で福岡空港へと向かった。

 「渋滞の心配のない地域で、小さい子どもを抱えた夜中の避難となり、車を使った。車に泊まるかどうかはその人を取り巻く条件に大きく左右されるだろう」と藤本さんは振り返る。「車は閉鎖された空間なので、車中泊の間はどこに誰がいるのか分からない。周囲への声掛けもしにくく、共助や公助のレベルは下がる。一方、遠隔地への避難も可能となり、自助のレベルは上がる」と言う。

◆余震への不安や避難所の快適さへの疑問から車中泊

 熊本地震では多くの被災者が車中泊を選択した。熊本市の民間グループ「こころをつなぐ『よか隊ネット』」が地震直後の4月下旬から5月中旬にかけて熊本市や益城町の車中避難者182人を対象に行った聞き取り調査では、車中泊の理由(複数回答)について、76%が「再び大きな地震があるのではないかと不安なため」と答え、最多だった。このほか、62%が「避難所での生活より車中避難の方がよいと思うため」、40%が「自宅に大きな損傷があり、住める状態ではない」を選んだ。余震への不安や、避難所への快適さに疑問を抱えていた実態が明らかになった。

徳島県内の自治体も、車中泊の避難者への対応に乗り出し始めています。<後編>では、県内自治体の取り組みを紹介します。