カフェ・ポールスターは「上勝を五感で感じられる場」としてつくったと聞きました。お店で取り組まれている「ゼロ・ウェイスト」ってどんなことでしょう。

 カフェ・ポールスターの玄関脇の看板には、入店時のお願いとして「ハンカチもしくはタオルの持参」と書いてある。スタッフも「持っていますか?」と声をかける。当店では、できる限りごみを作らないようにと、使い捨てのおしぼりやペーパーナプキンを置いていない。トイレの手拭きタオルも用意がないため、持参してもらった物を使ってもらっている。

 ハンカチがないと入れないかと言えば、そうではない。念のため、貸し出し用のタオルはある。しかし、お客さまにもゼロ・ウェイストに参加し、協力していただきたい。そういった思いから始めたトライアルである。

店舗入り口の看板

 カフェを始めた時から、上勝町のゼロ・ウェイストに貢献できる取り組みをしたいと考えていた。それは初回のコラムでも触れた、当店のコンセプトである「上勝を五感で感じられる場」をつくるための工夫の一つだと思っていたし、遠くから足を運んでくれるお客さまへの「おもてなし」になると考えていた。

「サービス」と「ごみゼロ」のバランスとは

 ただ、お客さまとのコミュニケーションでは試行錯誤の連続だ。戸惑うお客さまも多い。「おしぼりはないんですか?」と聞かれるたびに、この町がごみゼロを目指していることを説明する。しかしながら、一般的な飲食店を基準とすれば「サービスの悪い店」と思われることもある。「心地よいサービス」と「ごみゼロの体験」のバランスには今もなお、悩む。

 取り組みを自分たちだけでは説明し切れないこともある。そんなときに説得力を発揮するのが、上勝町が2017年に始めた「ゼロ・ウェイスト認証制度」。町がゼロ・ウェイストに取り組む事業所を公的に認証している。①従業員がゼロ・ウェイストの研修を受けていること②自治体の制度にのっとって分別やリサイクルに取り組んでいること③ゼロ・ウェイスト活動の目標を設けて計画的に取り組んでいること―を前提に、次の8種類の基準で審査される。現在、上勝町内では当店を含む6店が認証を受けている。

「ゼロ・ウェイスト認証制度」の審査項目
認証店のマップ

「量り売り」スタイルを模索

 ごみゼロを体験しやすい仕組みに、「量り売り」がある。容器を持ち込んで、好きな量だけ調味料やお米、コーヒー豆などを買う。昔は日常的に見られていた。衛生面や利便性から個別パッケージに移り変わっていったが、今、この量り売りが見直されている。東京や京都では、量り売り専門店もある。

 量り売りをすれば容器包装の削減ができる。また、必要な分だけ購入することで、食品ロスを防げる。例えば、上勝町に1週間だけ滞在するインターン生に1リットルのしょうゆは必要ない。そんなとき、「少しだけ」買える量り売りは重宝されるのだ。短期滞在者の他にも、キャンプに訪れた人たちや、地元のお米をお土産として持って帰りたい人ら、多様な人からニーズがある。これは実践して分かったことだ。

 当店ではここ数年、さまざまなスタイルの量り売りにトライした。最初は大きなガラス瓶などに入った砂糖やしょうゆ、茶葉を棚に並べ、お客さまに自分で量ってもらうスタイル。これは、床に商品がこぼれてしまったり、やり方をスタッフが説明しないと利用が難しかったりしたので、断念してしまった。

 今採用しているのは「カタログ方式」である。メニューブックに、当店の料理やお菓子に使っている材料一覧を載せている。買いたい物があれば、スタッフが容器を預り、量を量って用意する。こぼすことはなくなったし、お客様を待たせることなく準備できるようになった。

 唯一の欠点は「映えない」こと。棚にさまざまな商品が並んでいる様子は眺めるだけで楽しい。カタログにしてしまうと、そこにあるのは「情報」になってしまう。自らがゼロ・ウェイストな行動に参加しているという感覚も持ちづらくなってしまう。

お客様に計ってもらうスタイルの量り売り
現在採用しているカタログ形式の量り売り

 量り売りの模索は続いている。今、実験しているのは「カスタマイズできる楽しさ」を入り口にした量り売り。「おやつを変える」をコンセプトに、オーガニックナッツやドライフルーツの組み合わせを考えてもらう。例えば、疲れやすい人は、鉄やカルシウム、マグネシウム、亜鉛などをバランスよく含んだアーモンドを多めにして、オリジナルミックスを作る。普段のおやつを少し変えることで身体のコンディションを保つことにつながればと、栄養学を基本にしたワークショップも企画中だ。

 また、オーガニックの物を選べば、農地や自然環境のサステナビリティー保全に貢献できる。そうやって選んだ物を必要な分だけ購入し、保存すれば容器ごみの削減になる。始まったばかりのこの実験が、どのような結果を生むのか、楽しみである。

トライアル中のオーガニックナッツなどの量り売り

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 当店でのゼロ・ウェイストに向けた取り組みについて詳しくはYouTubeYouTubeチャンネル「ゼロ・ウェイストチャンネル」で。当店以外の上勝町内の認証店の取り組みも紹介されているので、ぜひともご覧いただきたい。

 

https://youtu.be/dH3nGV4nq6g

 

東輝実(あずま・てるみ) 1988年生まれ。上勝町出身。関西学院大卒業後、町へ帰郷し、夫らと合同会社RDNDを設立し、カフェ・ポールスターを経営。NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー事務局長を経て、現在は仲間とともに上勝町で滞在型教育プログラム「INOW(イノウ)」を展開している。

東さんのコラム「Rethink 上勝町のゼロ・ウェイスト」は毎月第3金曜日に公開します。