将棋の第33期女流王位戦(徳島新聞社など新聞三社連合主催)5番勝負が、26日に開幕する。里見香奈女流王位(30)=女流王座、女流王将、倉敷藤花=に、西山朋佳女流二冠(26)=白玲、女王=が挑戦する好カードとなった。同時期に開催されるマイナビ女子オープン5番勝負では、女王・西山に里見が挑戦し、両者の対決は春の10番勝負となっている。マイナビ女子オープンは第1局を里見が制し、第2局は西山が勝った。女流王位戦はどうなるか。戦いに臨む対局者に意気込みを聞くとともに、中座真七段(52)と加藤桃子清麗(27)に見どころを語ってもらった。
里見香奈女流王位 時間の使い方が鍵
強烈な攻めのイメージがある西山さんですが、ゆったりとした展開も指される印象で、一概に攻め一本という感じはしていません。指すごとに新しい発見があり、毎局、新鮮な気持ちで対局できる相手です。
西山さんは、最近いろいろな将棋を指されている印象です。どのような戦型になるかは、相手との兼ね合いで読めないですね。(お互い振り飛車党なので)相振り飛車の可能性は高いですが、あまり定跡化されていない戦型ではあるので、どうなるか。私が居飛車模様にすることもあるので、力戦になることがあるかもしれません。
女流王位戦は女流棋戦の中では持ち時間が最長(4時間)で、時間の使い方も大事にしていかなくてはいけない要素です。要所要所でじっくりと考え、力を出し切って戦いたいです。
各地に行くことができるのは女流王位戦ならではで、楽しみにしています。いろんな地域の
方々に将棋を知っていただき、女流棋界にスポットが当たる瞬間となればありがたいです。 タイトル戦を戦うことで、成長しながら強くなることが最大の目標です。
さとみ・かな 1992年生まれ、島根県出雲市出身。森雞二・九段門下。2004年、女流2級。11年、1級で奨励会に編入。18年、三段で奨励会退会。20年、女流六段。タイトル通算獲得数は女流王位7期を含む47期。
西山朋佳女流二冠 楽しむ気持ち持つ
実績もある里見さんは、皆が認める最強の女流棋士で、タイトルを取るためには避けて通れない相手です。隙が無く、研究が行き届いており、終盤も鋭く手ごわい方という印象。盤を挟む度に、自分の足りないところを感じます。
マイナビ女子オープンと並行し10番勝負となりますが、楽しむ気持ちを持って、一局一局悔いなく挑みたいです。同じ方と何度も指すと、特有の駆け引きが生じます。意識して一局一局を省みながら戦っていきたいです。
作戦の段階では、戦型にはあまりこだわらないというか、どちらかというと、組み終わった後に重きを置いています。どんな展開になったとしても、その裏には膨大な変化があると感じています。自分は何をやりたいのかを一局一局、慎重に考えていきたいです。
里見さんに比べて、私は隙だらけで、欠けている部分が多い。4時間で里見さんと指すのは初めてです。ゆったりと指せるので、全体的に濃密さは上がるのかなと感じています。
女流王位戦は初挑戦です。新鮮な気持ちで対局に臨みます。
にしやま・ともか 1995年生まれ、大阪府大阪狭山市出身。伊藤博文七段門下。2010年、6級で奨励会入会。18年、第11期マイナビ女子オープンで初タイトル。21年、三段で奨励会退会。女流三段。タイトル通算獲得数は9期。
女流王位戦日程
第1局 4月26日(火)夢乃井(兵庫県姫路市)
第2局 5月11日(水)京王プラザホテル札幌(札幌市中央区)
第3局 5月25日(水)旧伊藤伝右衛門邸(福岡県飯塚市)
第4局 6月7日(火)JRホテルクレメント徳島(徳島市)
第5局 6月20日(月)将棋会館(東京都渋谷区)
第15期マイナビ女子オープン5番勝負日程
第1局 4月5日(火)神奈川県秦野市
第2局 4月21日(木)甲府市
第3局 5月14日(土)神奈川県藤沢市
第4局 5月30日(月)東京都渋谷区
第5局 6月13日(月)東京都渋谷区
展望対談
中座真七段「相振り飛車の戦いか」 加藤桃子清麗「体調管理 戦局に影響」
―里見将棋の特徴について。
中座 里見さんは、受けが強いという人もいますが、私は攻めが強いなという印象を持っています。
加藤 基本は手堅く、勝率の高い手を重ねるタイプだと思います。美しい構えを好まれ、駒の効率を追求している繊細な将棋の印象です。終盤は、際どいところでも踏み込んできます。
―対する西山将棋は。
中座 押し引きのタイミングが独特で、魅力ある将棋ですね。早見え早指しで、人が考えていないところを読み、よく手が見えるなと感じます。
加藤 西山さんの将棋の魅力は金銀が前に出てくる将棋だと思っていて、厚みのある将棋を指されます。形勢が悪くなっても、相手にプレッシャーをかけるのがうまく、勝負術にたけています。リスクの高い手が多いのですが、それがすごい魅力的で華やか。セオリーを覆す考えもしない手を指され、視野が広いなと感じます。
―女流王位戦、マイナビ女子オープンで、同じ相手とタイトル戦を並行して戦うことになります。
中座 二人は振り飛車党なので、おそらく相振り飛車の将棋になるでしょう。10局指すことになるので、試したいなという戦型はあると思います。普段やっていない戦型が出てくるかもしれません。
加藤 私も相振り飛車の可能性が高いと思います。特に里見さんは、先手での中飛車採用率が高いので、中飛車を軸にどこに飛車を振るのか。また西山さんの振り飛車を見て、里見さんが居飛車模様にすることがあるか、といったところも注目です。
私は昨年秋に、里見さんと並行してタイトル戦(清麗、倉敷藤花)を戦う体験をしましたが、戦型選択の面で相当気をつかいました。同じ相手だと同じ戦型になりがちで、ちょっとずらすかな、他のにしようかなとか考えることがありました。
10番勝負は長期間ですが、密度濃くあっという間に終わってしまうのかもしれません。それぞれ(女流王位戦とマイナビ女子オープン)、持ち時間が違いますよね。女流王位戦は4時間と長いので、時間の使い方がポイントと思っています。4時間と3時間(マイナビ女子オープン)で、作戦の違いがあるのかが興味深いところです。
―楽しむポイント、また展開予想を。
中座 最近、お二人の将棋は息が合っているなと感じます。力を出し合える信頼関係があるのでは。今回のシリーズはお互いの力が目いっぱい出そうです。
加藤 大熱戦になると思っています。ダブルタイトル戦では、体調管理といった将棋以外の総合的要素も盤上に現れるのではないでしょうか。里見さんは作戦勝ちをして、一気に主導権を握ることが多いと感じています。戦いが長引いて、ゴチャゴチャするような展開になれば、西山さんに分がある気がします。
【展望対談 動画】https://youtu.be/f_hIK1cfxQo
息の合った濃密な内容に 新聞三社連合・森本孝高
八つある女流タイトルのうち、四つを保持する里見香奈女流王位に、西山朋佳女流二冠が挑戦することになった。今期の女流王位戦5番勝負は、頂上決戦と呼ぶにふさわしい顔合わせである。
西山は昨年、奨励会三段から女流棋士に転向。女流棋士のみに参加資格が与えられている女流王位戦は、今期が初登場だった。強豪ひしめく白組リーグを全勝で制し、挑戦者決定戦では、元女流王位の渡部愛女流三段に快勝して挑戦権を得た。
同時期に開催されるマイナビ女子オープン5番勝負は、女王・西山に、里見が挑んでいる。タイトルホルダーと挑戦者を入れ替え、あわせて春の10番勝負を戦うことになった。
両者は、昨年秋にも女流王座戦5番勝負、女流王将戦3番勝負と、連続する二つのタイトル戦でぶつかっている。このときは、いずれも挑戦者だった里見女流王位が奪取に成功している。
西山は、昨年秋のタイトル戦を「持ち味だったはずの粘り強さが足りていなかった」と振り返っている。原因のひとつに、西山は体力面をあげている。その反省を生かし、最近は運動する時間をつくり「体調面ではいい状態で挑めそう」と、新たな気持ちで対局に臨む。
迎え撃つ里見は、今年に入り、女流名人を失ったものの、公式戦では澤田真吾七段、池永天志五段に勝利し、好調といっていい。女流名人戦を戦っている最中は対局数が多かったが、いまは落ち着いている。
春の10番勝負を両者ともいい状態で迎えているのは間違いないだろう。
ともに振り飛車党。戦型の本命は相振り飛車だが、西山の振り飛車に対し里見が居飛車に変化する力戦調の将棋になることも考えられる。もちろん両者、さまざまな型を想定しているだろうから、二人の息がぴったり合い濃密な内容の将棋を見ることができそうだ。
女流二強の戦い。どちらも死角が見当たらない中で、あえてポイントをあげるとすれば、厳しい日程の中で、どれだけ良いパフォーマンスを出せるかだろう。女流王位戦第2局の札幌と、マイナビ女子オープン第3局藤沢対局の間は、中2日となっている。ここをどう乗り切るかが、勝負の行方を左右するのではと思っている。