4月に施行されたばかりの「プラスチック資源循環促進法」。プラスチックの利用削減やリサイクル促進が狙いで、プラ製スプーンを木製に切り替える企業や、これまで不燃・可燃ごみ扱いだったプラ製品の分別回収を始める自治体も出てきた。その一方で、自分たちの生活にどう影響するのかはいまいち見えにくい。プラごみの削減が世界的な課題となる中、そもそもプラごみの何が問題なのか。新法で何か変わるのだろうか。
プラごみを介して有害物質が体内に?
新法ができた背景には、「海洋プラスチックごみ」の問題がある。海に流れるポリ袋や発泡スチロールなどのプラごみを、ウミガメやアザラシなどの生物が誤って飲み込み、死に至るケースも少なくないのだ。
特に懸念されているのは、大きさが5ミリ以下の微少な「マイクロプラスチック」による環境汚染。プラスチックは紫外線や波によって小さくなり、その過程でプラスチックを軟らかくするための可塑剤や劣化防止の添加物などが海に溶け出す、と指摘される。
「マイクロプラスチックを魚などの小さな生き物が食べ、プラスチックに付いていた物質を取り込んでためる。その魚を鳥や鯨が食べる食物連鎖により、生物濃縮が起こる」。徳島大教養教育院の南川慶二教授(57)=高分子材料学=は説明する。海底に蓄積した有害な化学物質などとくっつき、体内に吸収してしまう場合もあり得るそうだ。
ただ、人体への影響ははっきり分かっていないという。「目に見えた健康被害が出にくく、『たいしたことはない』と捉える人もいる。新型コロナウイルスと似ている」
2050年までに魚の量よりプラごみの方が多くなるとする研究報告もある。「海洋ごみの排出量が多い途上国に対し『けしからん』と言う人もいるが、日本は自国で処分できないプラごみを途上国に輸出してきた。ごみを押しつけるのが正しいのか、考えないといけない」と南川教授。
「可燃ごみ」「不燃ごみ」からリサイクルへ
新法では何が変わるのか。ペットボトルのラベルやスナック菓子の袋などの「プラスチック製容器包装」に加え、バケツやおもちゃなどの「プラスチック製品」も同様に、分別回収することが自治体の努力義務に加わった。例えば、紙パックに入ったストロー付きの飲み物は、紙製容器包装を示す「紙マーク」の横に「本体」、プラマークの所には「ストローの袋」と書かれている。同じプラスチック製でもストロー本体は可燃・不燃ごみになっていたのが、これからはプラスチック製品として回収・リサイクルされる。
回収後の活用方法も重要だ。リサイクルには、プラスチック製品として再利用する「マテリアルリサイクル」、プラスチックを分解して水素や燃料に変えるなどする「ケミカルリサイクル」、プラスチックを固形燃料にしたり焼却して熱エネルギーを回収したりする「サーマルリサイクル」の3種類ある。日本の場合、約6割をサーマルリサイクルが占めるが、プラスチック新法では、熱エネルギー回収(サーマルリカバリー)をリサイクルに含めず、再商品化を促している。
自治体の動き低調 住民への周知や回収の負担大
とはいえ、自治体の分別回収に向けた動きは低調だ。環境省が昨年、全国の市区町村や広域組合などに行ったアンケートによると、回答のあった1455団体のうち、プラスチック製容器包装とプラスチック製品の分別回収・リサイクルを行っているのは、わずか31団体。施行後5年以内での取り組みを検討していると答えたのも、85団体にとどまる。
徳島県内でも元々、プラスチック製容器包装(ペットボトルを除く)をリサイクルごみとして回収していない市町がある。さらに、自治体の多くは制度の詳細が決まっていないことや、回収にコストがかかることなどを理由に、対応に踏み切れないようだ。
また、県内ではプラマークの付いているスナック菓子の袋やビニール袋などを資源ごみとして回収している自治体が多い中、吉野川、阿波、板野、上板の4市町は、ペットボトル以外のプラスチック製容器包装を可燃ごみとして処理。美波、牟岐、海陽の3町では、シャンプー・洗剤類の容器と食品用白色トレーのみを分別回収している。
一方、ごみの処理方法は施設の性能によっても変わる。徳島市は「再商品化までの道筋が定かでなく、回収後の処理方法も決まっておらず、今の設備では新法に対応できないかもしれない。国の方針や制度の中身が整い次第、準備を進める」としている。
20年に新ごみ処理施設の稼働を始めた那賀町の担当者は「回収方法や破砕方法が変わる可能性もあると聞く。施設を新しくしたばかりなのに、やり方を変えるのは難しい」と困惑気味。神山町はプラスチック製容器包装の他、おもちゃやバケツなどのプラスチック製品も一括して資源ごみとして集めているものの、「町内の関係業者や設備投資などを考えると、新法に沿った方法にシフトするのはどうだろう」と慎重だ。
果たして、どのプラスチック製品が資源ごみとして回収できるのか。自治体が新たに基準を設けて分別の種類を増やせば当然、住民側の負担も大きくなる。吉野川市では、住民から「これ以上分別を増やさないでほしい」との声が上がっているという。「分別しないといけないものが多く、年配の方は製品に書かれている文字マークが見えないこともある。住民の要望もあり、計画中の新ごみ処理施設では分別を変更する予定はなかったが、国の方針が打ち出されてきたため、対応しないといけないと思っている」と担当者は話す。
分別して集めたとしても、正しく分けられていないことも。プラスチック類を一括回収している小松島市の担当者は「再資源化できないものも混入していることがあり、リサイクル率は6割程度。分別を増やすと収集業務や費用が余計にかかるので難しい」。
リサイクルよりリデュース、リユースを
自治体による分別回収・リサイクル促進は簡単ではなさそうだ。それなら、自分たちでプラスチックの利用を控え、ごみを減らせばどうだろう。南川教授は「Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、 Recycle(リサイクル)の3Rのうち、優先すべきはリデュース。すなわち、資源・エネルギーの消費やプラスチックごみを減らすことだ」と強調する。「プラスチック自体が悪なのではなく、プラスチックをごみにすることが悪い。軽量で長持ちするプラスチックを利用することによるメリットもある。環境負荷を最小にすることを考え、できるだけごみにならないように使ってほしい」と呼び掛ける。