四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスの右腕中山晶量(てるかず)が今季、順調な滑り出しを見せている。鳴門高1年時に140キロに迫る直球を繰り出した鮮烈なデビューから8年。未完の大器は日本野球機構(NPB)入りを目指し、勝負のシーズンに挑んでいる。
29日現在、4試合に登板して29回を投げ、27奪三振を記録している。188センチ、90キロの体格から150キロ近いストレートを投げ込み、フォークボールとスライダーで打者を翻弄(ほんろう)。4戦目のソフトバンク3軍戦では後半に失点したが、三回までは無安打ピッチング。中山は「短いイニングなら、配球とコースさえ間違わなければNPBの打者でも抑えられる」と手応えを得た。
鳴門高時代は、後にドラフト1位で日本ハム入りする左腕河野竜生が同級生にいた。共に1年から登板したが、中山は最後までエース番号を付けることはなかった。球速では中山が上だったが、制球力、打者との駆け引きでは河野に一日の長があった。中山は「河野は試合で勝てる投手だった」と振り返る。
抜群の身体能力を生かし、3年夏の甲子園は外野手として出場、2点本塁打を放った。この一発には、野球漫画のようなエピソードが残っている。中山は一塁を回ったところでなぜかUターン。一塁ベースを踏み直してからダイヤモンドを一周する姿は、スタンドの笑いを誘った。
実はこの場面は送りバントのサインが出ていた。「審判に早く打席に入るようせかされてサインを見るのを忘れた」と中山。鳴門高の森脇稔監督は「大らかな性格の中山らしい逸話だが、結果としてチームに勢いを与えてくれた」と懐かしむ。
明大に進み、再び投手に挑戦した。しかし、東京六大学リーグの4年間は1勝止まり。チームには才能ある選手がそろっていた。その一人がドラフト1位でDeNA入りした同期の入江大生。中山もプロ志望届を提出していたが、名前を呼ばれることはなかった。身近にドラ1投手がいたことで、プロ入りに必要な力は肌で知っている。「2人は確かに良い投手だが、全くかなわないわけではない」と気丈に話す。
卒業後に徳島に入団し、今季が2年目。昨季は肩の故障もあって本来の投球ができなかったが、「今は上半身と下半身を連動して使えるようになり、制球が良くなった。以前とは全く違う自分が、別のスポーツをしているような感じ」と、好調の理由を自己分析する。恩師の森脇監督も「体幹が強くなり、スムーズなフォームで投げている。ようやくスイッチが入ったようだ」と評価する。
今季の目標は「自分に勝って、試合も勝つ」。野手が守りやすく、味方の攻撃につながるようなテンポ良い投球を心掛け、リーグトップタイの2勝を挙げ、奪三振も2位につけている。「ドラフト指名を受けるためにここにいる」。念願のプロのマウンドに照準を合わせるエースが、徳島の王座奪回へチームをけん引する。