「理系のエリートたちがなぜ」。一連のオウム真理教事件に付きまとっていた「闇」への解は一つ。殺人が自分に課された「修行」と納得したからだ。この納得こそが、事件の核心である

 どうやれば、あそこまで完全に人の心を操り、殺人もためらわぬ「納得」を生み出せるのか。逮捕から23年。核心を握る教祖は自らの口で事件を語ることなく、63年の人生を閉じた

 松本智津夫死刑囚は、熊本の貧しい家庭に生まれた。右目は見えたが、小学2年から盲学校に転入、ずっと寄宿舎で育った。実家は、訪れた担任が息をのむほどの極貧の中にあった

 「彼の心の中には、愛情の面でもお金の面でも、いつも満たされないものがあった」。当時の取材メモには、実の母のように慕われた元校長の悲痛な思いがつづられている

 27歳、オレンジの皮をアルコールに漬けただけの代物を「万能薬」と偽って逮捕される。「でも、効くんです」。追及する刑事に、容疑者は言い張った。病苦から逃れたいとすがる人なら心を操れる。詐欺師の手口だ

 罰金刑を受けた男は「元手なしにお布施が入るビジネス」を目指し、ある宗教家に弟子入り。独裁者ヒトラーに倣った人心掌握術を学ぶ。器の原型は出来上がった。バブル時代、貧困を知らぬ自分探しの若者たちが、尊師の「超能力」に吸い寄せられた。