化学兵器を用いた犯罪史上まれに見る無差別テロで、社会を震撼(しんかん)させた地下鉄サリン事件から23年。死者29人、6千人を超す負傷者を出したオウム真理教による一連の事件は、大きな節目を迎えた。

 殺人や殺人未遂などの罪に問われ、死刑が確定していた松本智津夫死刑囚=教祖名麻原彰晃=と、元教団幹部の死刑囚6人の刑がきのう、執行された。

 死刑が確定した13人の元幹部らの中で初めてとなる。

 犯行の重大性や被害者、遺族の感情を鑑みれば、現行の法制度からしても、やむを得まい。

 事件には多くの謎が残っている。どうにも理解し難いのは小さなヨガサークルが、わずか10年で出家信者1400人、在家信者1万人以上の宗教団体に成長し、テロ集団に変貌していった経緯である。

 有名大学や大学院のエリートを含む若者たちが、なぜ「人類救済」を掲げる荒唐無稽な教団の思想に陶酔し、殺人すら肯定するようになっていったのか。

 松本死刑囚の特異な個性によるところは大きいのだろうが、そればかりでもあるまい。若者を引きつけた理由をしっかりと解明しておかなければ、社会は第二のオウム事件に直面することにもなりかねない。

 首謀者が核心を語る機会はなくなったが、事件の闇に光を当てる努力は今後も続けていく必要がある。事件を風化させてはならない。

 確定判決などによると、松本死刑囚は、元幹部らと共謀し、1989年11月に坂本堤弁護士一家3人を殺害した。94年6月には、長野県松本市でサリンをまいて住民8人、95年3月には都内の地下鉄の車内でサリンを散布し、乗客と駅員13人の命を奪った。

 96年4月に始まった裁判では、当初、「弟子たちが起こした」と無罪を主張したが、やがて沈黙。一審東京地裁は起訴された全13事件で有罪とし、死刑を言い渡した。2006年9月には、最高裁で判決が確定している。

 法務省は最後の被告となった元信者の有罪が確定し、オウム裁判が全て終結した今年1月以降、元幹部らの死刑執行を本格的に検討していた。

 上川陽子法相は「慎重にも慎重を重ねた」と述べたものの、具体的な検討内容は明らかにしなかった。制度への国民世論の支持を、執行の妥当性の根拠としたが、死刑廃止は世界の潮流となっている。死刑制度の是非について、国民的に考えていく必要があるのではないか。

 事件後もオウム真理教は、「アレフ」など後継の3団体に形を変えて存続し、信者は計1600人余りに上る。逮捕時のみじめな姿や裁判中の奇妙な行動が伝えられても、依然として松本死刑囚を崇拝する構成員がいるとされる。

 神格化し「殉教」ととらえる者がいないとも限らない。報復テロなど不測の事態への備えも欠かせない。