阿南市の理容師でつくる県理容生活衛生同業組合阿南支部が「敬老の日」に合わせて、市内の高齢者施設で続けている散髪奉仕が今年、50回目を迎えた。初回から欠かさず参加しているベテランもおり、「敬老の日をさっぱり気持ち良く迎えてもらおう」とのボランティア精神が”町の散髪屋さん“に脈々と引き継がれている。
50回目となった今年の奉仕は14日にあり、支部員20人が毎年訪れている畭町の老人ホーム・福寿荘で、男女約50人の髪を整えた。80代の女性は整髪後に鏡を見て「きれいにしてもらった。まるで夜が明けたよう」とほほ笑んだ。
支部がボランティアを始めたのは1966年。当時、福寿荘では職員が入所者の髪を整えていたが、男性はバリカンで刈り込むだけで、女性もざん切り頭のような状態。「うまく散髪できない」との声を耳にした市内の理容師らが出向き、奉仕活動を始めた。
理容師歴50年以上の井沢忠昭さん(77)=加茂町=は初回から活動に加わる長老格で、「初めて行った時、入所者が本当に喜んでくれてね」と振り返る。
井沢さんによれば、丸刈りしかしたことのないおじいさんが、髪を伸ばしておしゃれするようになったこともある。訪れるたびに「眉毛をもっと細く」「鼻の下の毛をそって」といった要望も寄せられるようになり、お年寄りの表情も生き生きとし出した。
若かった井沢さんらにとって、人生の先輩たちの貴重な話を聞く機会になった。戦時中の苦労を話したり軍歌を口ずさんだりしながら、涙ぐむお年寄りもいたという。「散髪しながら、いろんな話が聞けるのが楽しみで。気が付いたら50年もたっていた」。自身も喜寿の井沢さんは照れたように笑う。
山内浩三支部長(54)は「喜んでもらえてうれしい限り。これからもずっと続けたい」と話している。