徳島県内の文学愛好家有志による「徳島文学協会」が発足して5年。作家養成講座の開講、文芸誌の創刊などに取り組み、全国公募の文学賞受賞者を次々に生み出してきた。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、会員が集う養成講座は一時中止を余儀なくされたが、オンラインに切り替えて継続。徳島の文学シーンに新風を吹き込んでいる。
5月21日夜、ビデオ会議システムZoomでの講座に、佐々木義登会長(55)=四国大教授=ら会員9人が参加した。前もって参加者に送付された会員の作品を題材に、議論が進む。
「登場人物が多すぎる」「心象風景の描写は巧みだが、現実の描写が少なく、心象風景と現実がどうつながるか分かりにくい」「句読点のない長い文章を入れるなど工夫しているようだが、成功していない」。他の会員から厳しい指摘が飛ぶ。
講座は初級、中級、上級の三つに分けて月1回程度のペースで開いており、この日は上級講座。議論はその後、第127回文学界新人賞受賞作の読解に移った。
参加者の1人、高田友季子さん(37)=美馬市美馬町、会社員=は「自分が書いた作品は冷静に読めないので、客観的に瑕疵を指摘してもらえるのは大きい。他の方からいい作品を紹介してもらえるなど、刺激を受けることも多い」と言う。
徳島文学協会は、県立文学書道館などで小説講座を開いていた佐々木会長が受講生らに呼び掛け、2017年1月に設立。同年5月28日に徳島市内で発足式が開かれた。当初31人だった会員は現在、20~70代の70人余りに増えた。会員からは次々に全国公募の文学賞受賞者が出ている〈表参照〉。
主な活動は作家養成講座のほか、小説コンクール主催や文芸誌発行だ。18年から、掌編小説を全国公募する「阿波しらさぎ文学賞」を徳島新聞社と共催。応募数は第1回が422点、21年の第4回は516点と増え続けている。
文芸誌「徳島文學」も18年から年1回、第4号まで発行。会員の出した作品が全て掲載される同人誌とは一線を画し、編集部の審査を経た秀作と、執筆依頼をしたプロ作家の新作を掲載してきた。
柱の一つである養成講座は当初、文学書道館で開いていたが、新型コロナ禍で集まれなくなった。オンラインで試行したところ、十分に論議できると分かり、そのまま継続している。
オンラインによる利点は遠方からの受講が容易になったこと。千葉県君津市のパート従業員、高梨花子さん(47)は、インターネットで小説講座を探していて徳島文学協会に行き着いた。「書いた作品をどうブラッシュアップしようか迷うと、まずここに出して意見を聞いてみる。皆さん、すごく丁寧に読んでくれる。必要なことは全てここで教わった」と話し、今秋の文学賞応募を目指している。
協会は感染状況を見ながら、会員が集まる形での講座再開を模索。オンラインとの併用を検討している。
佐々木会長は「地域の文芸文化振興を目的に掲げ、そのためにはどうすればいいかを一貫して考えて活動してきた。実現に向け、この5年で思った以上の結果が出せたと考えている」と振り返る。今後については「融合しながら広げていく。四国、関西の文学同人誌や文学賞と連携し、地方から文学の大きなうねりをつくりたい」としている。
徳島文学協会会員の主な受賞 (敬称略、年齢は当時、小説講座受講生を含む)
2016年、三田文学新人賞奨励賞 藤代淑子(68)小松島市
17年、三田文学新人賞佳作 高田友季子(31)美馬市
17年、大阪女性文芸賞 久保訓子(65)神山町
19年、林芙美子文学賞佳作 阿部あみ(53)鳴門市
19年、幻冬舎小説コンテスト大賞 菊野 啓(59)徳島市
21年、阿波しらさぎ文学賞大賞 なかむらあゆみ(48)徳島市
21年、阿波しらさぎ文学賞徳島新聞賞 宮月中(27)徳島市
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徳島文学協会は会員を募っている。年会費7千円。問い合わせは事務局の久保訓子さん、電話080(6284)0296(日曜祝日を除く午前9時~午後5時)。メールはsociety@t-bungaku.com