元刑務官の作家坂本敏夫さんは、任官して間もなく大阪拘置所の刑場を視察した時の様子を、自著で述懐している。案内担当の看守部長が退室する際に合掌したので、理由を聞いた。部長はこう答えたという
「全ての死刑に関わるんだ。この部屋に入る時と出る時は、厳粛な気持ちで死者に祈りをささげている。死刑は非常に重い仕事だよ」。法に従った「業務」とはいえ、人の命を奪うことへの負い目がにじむ
さても、この人たちは厳かな心境にならなかったのか。松本智津夫死刑囚らオウム真理教の元幹部7人に、死刑が執行された日の前夜のこと。酒席に参加した安倍晋三首相や上川陽子法相に、ネットで批判が噴出している
端緒となった出席者のツイッター投稿によれば、自民党若手議員との懇親会だった。添付画像で、首相や法相が親指を立てて乾杯のポーズを取っている。目を疑った
法相は懇親会の2日前、7人の死刑執行命令書に署名した。死刑執行は超の付く極秘事項だ。まさか酒席の話題になってはいまい。が、首相なら翌日の刑執行を知らないはずがない
坂本さんは自著で、死刑執行に携わって心を病み、勤務できなくなった同僚のことも書いている。過酷である。オウムの犯行は陰惨だった。にしても、なぜ親指を立てて乾杯できるのか、全くもって分からない。