新型コロナウイルスの影響で減っているとは思いますが、それでも、ゼロウェイストを掲げる上勝町には視察で訪れる人も多いと思います。町の環境政策は、町の経済にどんなふうに影響していますか。話はちょっと大きくなりますが、サステナビリティーと経済発展って両方目指せると思いますか。

 

 1,721名。昨年度、上勝町が受け入れた視察者の数である。

 町の広報紙によると、新型コロナウイルスの影響を受けた2020年度と比べて714名多かった。そのうち35%がゼロ・ウェイストを目的とした視察で、割合は一番大きい。

 また、「上勝町地域創生総合戦略」内の「ゼロ・ウェイストブランドを活用した循環型まちづくり事業」の成果報告では、2015度から19年度までの新規事業所数は5事業所、年間延べ視察者・観光来町者数は10,874人だった。ゼロ・ウェイスト政策が町に人を呼び、新しい雇用やお金を生んでいることがうかがえる。

 これは数字から見える事実である。そしてここからは、私なりのサステナビリティーと経済発展の両立について書いてみる。ただ、「サステナビリティー」という言葉は捉える範囲が広すぎる。今回は「上勝町の持続可能性と経済について」と、自分の身近なところに焦点を絞って考えたい。

何のためにお金が必要なのか?

写真提供:渡戸香奈

 人口を超える視察者が例年訪れていることを踏まえ、ゼロ・ウェイストに関連しては起業だけでなく、企業連携の可能性が町で何度か検討されてきた。では、現状で町内の企業連携は進んでいるのか。残念ながら、具体的な連携が生まれたケースは数えるほどしかない。

 その理由の一つとして、昨年当社RDNDが上勝町から受託した「ゼロ・ウェイストタウン計画策定事業」における調査の中で、「受け皿」となる体制の整備が不十分であることを指摘した。せっかく多くの人が訪れても、行政や町民、町内の事業所と関わる仕組みがない。だから、町内の課題解決に共に動くにまで至らない状況が続いている。

 これについては上勝町ゼロ・ウェイストタウン計画書の中で、受け皿となるべくデザインセンターを新しく設立し、企業との連携を深めていくという方針が掲げられている。小さな町にとって、いかに自主財源を確保するかは重要で、かつ難しい課題。今は目の前にある可能性を生かし切れていないと感じる。

 一方で、上勝町の価値は何か、と考えると、豊かな自然が当たり前のようにあり、棚田やお茶作りといった伝統文化が今も息づいていることにあると私は感じている。企業連携などで目指す経済発展は、あくまでもこうした価値を未来に残すための手段だ。「なんのためにお金が必要なのか」と私は常々考えている。お金の必要性は身にしみて分かっているが、「何のために必要なのか」が十分に議論されないまま、「経済循環」や「企業連携」といった言葉が先行している場面が多いように感じる。

 一つ例を示す。土日祝日はサービス業を生業とする事業所にとって「稼ぎ時」だ。しかし同時に、お祭りのほか「出役(でやく)」と呼ばれる町のボランティア活動が実施される日でもある。どれだけサービス業がもうかり、雇用が生まれようとも、地域生活や伝統の維持に携わる人が少なければ、結果として「上勝町の価値」を失うことになるかもしれない。私も飲食店を経営する身として、この矛盾に罪悪感を持つ場面がある。

 雇用を守りつつ、同時に上勝町の価値を未来につなぐコミュニティーをどうつくればよいか。この問いに答えようと、私たちは前回の記事で書いた「INOWプログラム」の運営を通して挑戦している最中だ。

 INOWメンバーの仕事の根底は「この町で暮らすこと」にある。田畑を耕し、先輩たちに教わりながら、町の文化を繋ぐ一員になるために時間と労力を地域に投資する。そこでできた自身の人脈や経験を活かして、上勝町のゼロ・ウェイストな暮らしを体験できるプログラムを構築し、外部からの参加者に提供することで外貨を獲得する。それが彼女たちの雇用を維持する資本となる。

INOWプログラムの循環図

アイデアが集まる地域 

 お金のかけ方を見れば、そのコミュニティーが大事にしたいと考えているものが見えてくる。町を維持するためのインフラの整備なのか、教育などの未来に向けた投資なのかー。

多様な人々が集まり、上勝での暮らしを理解しながら学び合う

 私個人は、人材の確保に投資すべきだと考えている。上勝町には今も世界各地から人が集まっている。ここで培われてきた知識や知恵を基に、彼らのノウハウを町の未来を描く力に加えていく。大切なのは、彼らが深く住民と関わることができ、多種多様なトピックについて議論し、共に学ぶ習慣がある地域にすることだ。 

 多様な知恵は事業の機会を生み、利益を生み出す。面白い人がいれば、人は集まる。そして、その輪に加わろうとさらに人がやって来る。その結果、「上勝町の価値」をつなぎ、経済的な持続性も担保される。

 これは、夢物語だ。しかしながら、どこか相反するものだと捉えられがちな「サステナビリティー」と「経済発展」の関係について、小さな田舎町から新たな在り方を提案できるチャンスだと思って、まずは夢から語ってみたい。

  東輝実(あずま・てるみ) 1988年生まれ。上勝町出身。関西学院大卒業後、町へ帰郷し、夫らと合同会社RDNDを設立し、カフェ・ポールスターを経営。NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー事務局長を経て、現在は仲間とともに上勝町で滞在型教育プログラム「INOW(イノウ)」を展開している。

 

東さんのコラム「Rethink 上勝町のゼロ・ウェイスト」は毎月第3金曜日に公開します。