鳴門市で塩田を営んでいた故緒方常雄さん=同市撫養町黒崎、1997年に95歳で死去=が地元の塩作りを絵と文でつづった絵巻物が、1冊の本にまとめられた。日本塩業研究会会員の小橋靖さん(62)=同市撫養町南浜、元鳴門市職員=が「貴重な資料を後世に残したい」と自費出版した。
タイトルは「鳴門塩田絵巻」(B5判、128ページ)で、緒方さんが80年に制作した「入浜塩田絵巻、小日和仕事と子供」「せんごう釜絵巻」「流下式塩田絵巻」の3巻をフルカラーで収録した。小橋さんが絵や専門用語について補足説明や解説を加えている。
絵巻物は、幼少の頃から70年近く塩作りに励んだ緒方さんが、鳴門の塩作りの歴史を後世に伝えようと記憶をたどりながらつづった。縦26~27・5センチ、3巻合わせて長さ22・3メートルの和紙に、浜の整地、海水の引き入れといった「入浜式塩田」の工程や設備、道具類などを紹介している。
小橋さんによると、江戸時代に興った鳴門の入浜式塩田は、後継者に代々口伝されてきた。しかし、塩生産の工業化が進んで塩田は72年に廃止され、同市で伝統の技を受け継ぐのは緒方さんが最後の1人だった。緒方さんが残した絵巻物は全国でも類例がなく、塩業の歴史を知る上で貴重な資料という。
市教委などに勤務していた小橋さんは、地元の塩作りに関心を持ち、独学で研究に取り組んできた。取材で生前の緒方さんを何度も訪ねており、定年退職を機に緒方さんへの恩返しの思いを込め、絵巻物を保管している遺族の了承を得て出版に踏み切った。
小橋さんは「この本をきっかけに、塩田研究が進めばうれしい」と話した。
鳴門塩田絵巻は千部発行。県内の主要図書館に寄贈したほか紀伊國屋書店徳島店、小山助学館本店などで販売している。2800円(税別)。問い合わせはグランド印刷<電088(622)8448>。