第19回季節のひとかけら年間賞に選ばれ、笑顔を見せる高橋聖花さん=徳島新聞社

第19回季節のひとかけら年間賞に選ばれ、笑顔を見せる高橋聖花さん=徳島新聞社

 徳島新聞ヤングカルチャー面「季節(とき)のひとかけら」の第19回年間賞に、阿南第一中3年の高橋聖花さん(15)の〈寒紅や鏡の中に火を灯(とも)し〉が選ばれた。賞は昨年6月から今年5月までの1年間に寄せられた俳句の中で、最も優れた作品に贈られる。受賞句は昨年11月の金賞。高橋さんは「年間賞は全く考えてなくてびっくり。でも思い入れのある句の受賞で大変光栄です」と声を弾ませた。

 昨年10月末の夜、歳時記を読んでいて「寒紅」の言葉が目に留まった。寒紅は寒中に製造した品質の良い紅とのこと。ほの暗い江戸の夜に鏡の前で寒紅を引く女性のイメージを膨らませた。口紅を塗った時に顔が色づき、ときめく思いを込めた。

 工夫したのは「火を灯し」。「夜の闇の中で女性の周りの雰囲気が一気に明るくなる様子をうまく表現できたと思う」

 俳句を本格的に作り始めたのは、昨年、中学2年の9月ごろ。日本語にとても関心があり、深く勉強しようと歳時記を読み始めたのがきっかけだった。日本語の奥深さや美しさに心動かされ、何か形にしたいと俳句を詠んでみた。せっかく詠んだ句を発表するためヤングカルチャーに投稿をするようになった。

 俳句は思い浮かんだ時に作ってスマホにメモ。毎週2、3句は詠む。俳句作りのためにわざわざ出かけることはないが、いい題材がないかと常にアンテナを張っている。言葉で絵画的世界を描き出すのが表現のこつ。情景が浮かぶ言葉を必ず詠み込んでいる。

 俳句の魅力について「意味が分からなくてもリズムを感じられるところ」とにっこり。「外国語が分からなくても洋楽のメロディーに引き込まれるように、全く知らない人でも入り込みやすい」と絶妙の例えで表現する。

 加賀千代女や杉田久女ら名だたる女性俳人が憧れの人。好きな俳句本は、神野紗希著「女の俳句」を挙げる。細やかな女性の視点で世界観を追究する。

 読書と文章を書くのが大好き。幅広いジャンルの本を毎月50冊前後読む。気になったら、とことん調べずにいられない研究者肌で、徳島大の図書館に通って難しい歴史資料にも目を通すほどの入れ込みようだ。俳句に限らず、詩や短歌からコラム、エッセー、小説まであらゆる文芸に挑戦している。

 徳島新聞を隅々まで読み込み、さまざまな欄に投稿を続ける。歴史にも強い興味があり、中学生にして早くも古典に精通。百人一首をそらんじており、源氏物語や枕草子がお気に入りという。

 文学少女の将来の夢は本に関わる仕事をすること。「大好きな古典のように、もののあわれを表現するには実力不足。受賞を励みに腕前を上げるためもっともっと勉強したい」とさらなる飛躍を誓った。

【選評】寒暖と明暗、二つの対比 山田讓太郎「航標」主宰

 高橋聖花さんには受賞句の他に「露の秋日当たりそめし草むらの」という秀吟があった。どちらを1位にするかで少し迷った。ただ2句共に中学生の作品としては全国的に見ても高い水準にあると思う。

 受賞句は寒暖と、明暗の二つの対比があり、句に奥行きを与えている。「火を灯し」は化粧のために部屋の明かりをともした、くらいの解釈で良い。鏡中は明るくなる。「鏡の中に」がやはり効いている。

 鏡は古代より、生死を超越する性質、あるいは聖性を持つ存在であった。

 大林宣彦監督の映画「ふたり」では、鏡は、死去した姉が妹を助けるために生の世界へ通う通路として用いられている。

 こうした聖性を持つ鏡が明かりの下、寒紅と取り合わされた時、その二物衝撃が新たな領域を生み出す。