「女性らしい繊細さ」「ママさん選手」「内助の功」―。世の中の人権意識は日々アップデートされていますが、新聞ではいまだに性別役割意識に基づく表現が見られるのが現実です。なぜそうなってしまうのか―。記者自らが、新聞紙面のジェンダー表現から性差別、社会の在り方を考察するトークイベントが6月12日、徳島市のアスティとくしまで開かれました。新聞労連加盟社の記者が編集した「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」(小学館)の発刊を受けて、全徳島新聞労組が企画。編集に関わった記者らが登壇し、会場とオンラインで約100人が参加しました。新聞表現に関わる議論を中心にレポートします。

 登壇者は、新聞労連委員長の吉永磨美氏(毎日新聞記者)、編集チームリーダーの中塚久美子氏(朝日新聞記者)、性暴力報道に関する章の編集に関わった乾栄里子氏(徳島新聞記者)、徳島大講師の井ノ崎敦子氏(ジェンダー研究)の4人。司会は乾氏。

中塚記者 「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」は4章仕立てになっている。そもそもなんでこの本を労働組合がつくったのか。そこを詳しくお話したい。新聞労連そのものも、男性が中心になってずっと続いてきた。2018年、財務省の事務次官による女性記者へのセクハラ問題があった。取材に行った記者に事務次官という立場でセクハラをしたというのが報じられた。そこで、いろんな女性記者が「人ごとではない」と感じ、孤立させないと声を上げ始めた。そういうことを見過ごし、黙って見てきた土壌には、労働組合自体が男性中心だったということがある。その問題意識から、女性の声をすくい上げる仕組みとして「特別中央執行委員」という女性枠が2019年にできた。

 特別中央執行委員の引き継ぎの中で、新聞社のデジタル部門で働く女性の記者から、「デジタル部門では性的なものをにおわせる見出しが付けられている。ページビュー(PV)が取れるので、(違和感を)言っても聞き入れてもらえない。どうしたらいいか」という悩みが共有された。

 社内で声を聞き入れてもらえないなら、指針になるものを作り、外から言っていこうという話になった。それがガイドブックを作るきっかけ。自分たちが今までメディアの中でどのような表現をしてきたのか、「ジェンダー平等を目指す」ことに反する表現をやっていなかっただろうかと、全国の組合員に呼び掛けて事例を集めた。その事例を基に本を編んでいった。自分たちがやってきたことを検証し直すというのがスタートだ。

 1章は新聞の中でみるジェンダーの表現について取り上げた。「内助の功」「〇〇女子」「女医」「女子アナ」とは言うが、「男医」「男子アナ」とは言わない。女性の社長がいれば「子育てと仕事の両立は」と聞くが、男性の社長に同じ質問をするのか。選挙になると女性の候補者には「立候補について家族の理解は」と聞きがちだ。そういうことをやってきたが、それはなぜなのか、ということを書いている。「言葉狩りだ」とも言われるが、「この言葉は使わないで」ということではなく、さまざまな言葉について、なぜ使われているのか、どういう考えで使ってきたのか、それはこういう点で問題なのでは、と読み解いている。

 2章は新聞のウェブでの表現について。新聞紙面だと、どの記事がどれだけ読まれているのか分からないが、デジタルだと分かる。読んでもらうために見出しが過激化したり、性差別を含んだりしがちだ。

 極端なのが性犯罪。紙面の場合は、例えば「強制わいせつ容疑で38歳教員逮捕 〇〇署」といったように、容疑名や場所が見出しになる。デジタルでは、社によっても違うが、手口や供述が見出しに出てしまう。「『かわいかったから追いかけた』〇歳逮捕」や「風呂をのぞき見た」といったように。性犯罪が消費のコンテンツになってしまう。しかし、事件報道ってそういうことだっただろうか。ジャーナリズムや新聞の役割はそういうことだったのだろうか。そうした根本的な問題が跳ね返ってくる。

 各社が(デジタル分野で)試行錯誤をする中で、人権侵害が起きていないのか、ということを取り上げている。

 3章では性暴力を取り上げた。消費コンテンツになっていないかということもある。また、例えば、痴漢についてだが、「薄着になる夏に、痴漢防止のキャンペーンが始まった」という話を私たちは受け入れがちだ。しかし、薄着だから痴漢が増えているという事実はない。いかに被害者が頑張って被害に遭わないかということが強調され、加害をどうやって止めるかという視点も薄い。警察から流れてくる情報を私たちが検証して出せていたのか、ということを見つめ直した。

 4章では組織の在り方として、現在地を示した。これまでのエラーについて、どうしてこういうことが起きるのかを考察したものになる。例えば、鉄道など公共交通の会社による事故など重大インシデントが起きたとき、検証すると企業風土や文化に行き着く。「表現の重大インシデント」であるジェンダーの不適切表現が発出されるメディアの風土や企業文化を振り返らないと、根本的な部分を見直せない。そこを考察した。

 「ガイドブック」としつつ、ノウハウというより、もう少し踏み込んだ内容になっている。

乾記者 これまで新聞社がタッチしてこなかったデジタル分野で新しい現象が起きている。試行錯誤をする中で、紙面であれば見出しに取らないようなところを見出しに書いたり、性的興味を引くような表現をしたり。それはどこの新聞社もやってしまっていると感じている。