【上】山橋さんとヴァルデスの遺影に手を合わせる和美さん=10日、徳島市昭和町8【下】事故現場に供えられた花やドッグフード=10日、同市新浜町1

【上】山橋さんとヴァルデスの遺影に手を合わせる和美さん=10日、徳島市昭和町8【下】事故現場に供えられた花やドッグフード=10日、同市新浜町1

 視覚障害者の山橋衛二さん(50)=徳島市昭和町8=と盲導犬「ヴァルデス」が、警報音を鳴らさずにバックしたトラックにひかれて死亡した事故から10日で1週間。山橋さんの母和美さん(77)が徳島新聞の取材に応じ、思いを語った。トラックの警報音義務化を求める動きに「息子の死を受け、社会が少しでも変わってくれれば」と話し、生前の山橋さんとヴァルデスをしのんだ。
 
 和美さんによると、山橋さんは19歳の時に交通事故で失明し、意気消沈してほとんど外出しなくなった。しかし数年後、盲導犬と出合ったことで性格が目に見えて明るくなり、よく外へと出るようになった。
 
 8年余りにわたって生活した3代目の「伴侶」、ヴァルデスとは自宅の屋内で寝食を共にした。一緒に風呂に入ることもしばしばで、就寝時には傍らにいつも寄り添い、深い信頼関係で結ばれていた。
 
 毎朝勤務先に向かう途中、和美さんが住むすぐ近くの実家に立ち寄った。和美さんは「行ってらっしゃい」を言うのが日課だった。
 
 外出時の呼吸もぴったりだった。道路に障害物があると、ぶつからないようにヴァルデスが誘導した。車や自転車などが周囲を走る際は、止まったり、歩くスピードを変えたりして危険を教えた。信号待ちの時は山橋さんが車の走行音などを聞き分け、ヴァルデスに停止を指示した。
 
 悲劇の日となった事故当日は、くしくもヴァルデスの10歳の誕生日。山橋さんは出勤時、和美さんに「今日はお祝いに生肉をやった」と話し、ヴァルデスも上機嫌だったという。
 
 事故を受け、県はトラックの警報音作動の義務付けを求めて国に政策提言する。再発防止へ関係法令の改正を求める動きがあることに和美さんは「視覚障害者は音を頼りに歩く。事故を防ぐためにも警報音は必ず鳴らしてほしい。何かがないと法律が変わらないのは残念だが強く望む」と言う。
 
 事故現場は多くの人が死を悼んで訪れ、花やドッグフードを供えている。和美さんは気持ちの整理がつかず、まだ訪れてはいないが「報道を見て、花を手向けてくれたのかな。直接お礼は言えないが感謝をしたい。衛二も喜んでいると思う」。ヴァルデスと共に写った山橋さんの遺影の前で合掌し、涙ぐんだ。