絵本作家の佐野洋子さんは生前、平凡や普通を大切にした。<私は何のために生きているのかというと、日常生活をするために生きてるの>

 美大の後輩に当たる漫画家・西原理恵子さんとの対談(「人生のきほん」講談社)で打ち明けたのは、そんな人生観。あまたある佐野作品の下敷きにもなっている

 代表作の「100万回生きたねこ」も例外ではない。<これを書いたときの気持ちは、ごく普通の生活をつつがなくすることが、どんなに大変かということだけだったような気がするのね>(「ほんとのこと言えば?」河出書房新社)。気持ちはそのまま、物語に映し出された

 佐野さんの画業を振り返る「佐野洋子の世界展」が、徳島市の県立近代美術館できょう開幕する。「100万回―」の原画を中心にした約130点の展示

 佐野さんはエッセイストとしても名高い。絵本作家とだけ捉えても、活動は多様性に富む。会場に並ぶ原画はアクリル画、油彩、クレヨン画と作品ごとに違う。後期に新境地として取り組んだ銅版画も実に興味深い

 平凡・普通を重んじつつ、いろんな道を探して挑む。佐野さんの表現者としての一面が浮かんでこよう。絵本画の細かい筆致と異なり、エッセーは歯に衣(きぬ)着せず豪快だ。一読して会場に訪れるのをお勧めする。別の見え方があるかもしれない。