「読みがたり 徳島のむかし話」

 本書は2006年、全国47都道府県ごとの「読みがたり むかし話シリーズ」の一冊として出版された。文章と挿し絵を担当したのは、徳島文理大名誉教授の飯原一夫さん。この分野の第一人者である。

 「動物の話」「ゆかいな話」「てんぐとやまんばと化け物の話」「不思議な話・こわい話」「お寺と地蔵の話」「タヌキの話」の6章に分類し、全60話を収録している。タヌキだけで一章を設けているのが、タヌキ譚(たん)の宝庫・徳島らしくていい。

 もちろん、阿波のタヌキ合戦を戦う「小松島の金長」「津田の六右衛門」の両雄について、それぞれ取り上げている。六右衛門に味方した「高洲の隠元」、吉野川中流域で勢力を誇った「赤岩の将監」といった個性的なタヌキも紹介している。また明治の時代、汽車の開通に伴って住みかをつぶされたタヌキが、黒い化け物(機関車のこと)に悪さを仕掛けるものの、夜汽車に跳ね飛ばされて昇天する「汽車のまねをしたタヌキ」などは哀れである。 

 「お亀千軒」も、徳島では有名な昔話だ。かつて徳島市の沖合にあり、1千軒もが暮らしてにぎわっていた離れ小島が、大波のため一夜にして沈んだと伝わる怪奇譚である。

 この島には、「お宮のこまいぬの目が赤あになったら、島が海の底にしずむ」という言い伝えがあり、島民もそれを信じていた。ある夜、おそろしい海賊の一味が島に入り、港や船を襲った上で、こまいぬを真っ赤に塗りたくった。言い伝えを悪用し、これを信じた島民が逃げ出した後で、ゆっくり物盗りをしようと企んだのである。ところが島民が退出するや、大きな波が何度も島を襲い、海賊の一味もろとも、海の底に沈んだそうである。

 この昔話は、「盗賊のような悪いことをしてはいけない」という規律とともに、「古くからの言い伝えは守ろう」という智恵や教訓を伝えている。そして、100年から150年に一度の割合で発生する南海トラフ巨大地震についての、いわば防災テキストとしても読めるわけである。飯原一夫さんには、昭和南海地震の惨事を描いた絵本「シロのないた海」(徳島出版)もあり、こちらもお薦めの一書である。

 「読みがたり 徳島のむかし話」は、「徳島のむかし話」編集委員会編。日本標準(東京都杉並区南荻窪)発行。1572円(税込み)。

【徳島この一冊】ほかの記事はこちら
https://www.topics.or.jp/subcategory/徳島この一冊