熱戦が続く全国高校野球選手権徳島大会。3年生にとっては負ければ即引退になり、試合後は負けたチームが球場の外で最後のミーティングを開く。17日は昨夏の徳島大会で準優勝した板野高校が、富岡西高校に敗れ、最後のミーティングが行われた。
球場から出てきた選手たちは、全員が無言。重苦しい空気が漂う。輪になった選手を前に和田哲幸監督が切り出す。いや切り出そうとするが言葉が出ない。一呼吸おいて涙声で「今日話す言葉は考えていなかった。今年の夏は『去年は悔しい思いをしたが、銀メダルが金メダルに変わって良かったなあ』という言葉で終わろうと思い続けていた」。そして再び言葉に詰まる。選手たちは泣きじゃくり、土にまみれた腕で涙をぬぐう。
「言葉が出ない」と言いながら和田監督は必死に言葉を紡ぐ。「この場に立って最後を迎えるのは勝者やと思っている。苦しさを乗り越え、最後まで頑張り続けてきた、立派な勝者や。この頑張りは貴重な財産であり、きっと後の人生で輝く瞬間が来る」とエールを送った。
続いて3年生一人一人があいさつする。「このメンバーと一緒に野球できるのが楽しかった。一秒でも長く野球がしたかった」「けがをしてしばらく休んだ後、練習に復帰すると『お帰り』と言われて、うれしかった」「やめようと思った時に、同級生が止めてくれた。続けて良かった。感謝しています」「1、2年生はこの悔しさを忘れず、頑張ってください」。さまざまな思いが語られる。あいさつした後は、和田監督とがっちり握手。ねぎらいの言葉が掛けられ、涙が止まらない選手もいる。
多くの学校なら、ミーティングはここで終わりかもしれない。監督や主将のあいさつだけのチームもあるだろう。板野高校の「最後のミーティング」はまだ続く。
今度は3年生と、3年生の保護者が対面形式となり、後輩たちが見守る。選手一人一人が前に進み、親に向かって思いを伝える。高校3年生と言えば、照れくさい世代かもしれない。それでも真っすぐに向き合い、素直に語る。涙が止まらない選手もいるが、振り絞り言葉を出す。
「小学生で野球を始めてから今まで支えてくれて、ありがとうございました」「お父さん、野球を教えてくれてありがとう。お母さん、いつも遅くまで温かいご飯を用意してくれて、うれしかった」「実力不足で試合には出れなかったのに、いつも見守ってくれてありがとうございました」。感謝が続く。
「これからは恩返しできるように頑張ります」「しっかり勉強して公務員になって、お父さんとお母さんを支えます」。新たな決意に、親も涙があふれる。あいさつを終えると、握手や抱擁、グータッチなどで3年間の健闘をたたえ合う。選手の「最後の夏」は親にとっても「最後の夏」であり、さまざまな思いがこみ上げる。
和田監督は言う。「多くの生徒が高校野球で、野球生活の一区切りを迎える。最後に、きちんと親に向けて感謝を伝えることが次の人生の一歩になる」。
一通り儀式が終わると、和田監督が「ほな、帰ろうか」と締め、球場を後にした。昨夏は決勝まで進み、長かった夏も、今年は初戦で敗退。球場からは次の試合のアナウンスと歓声が聞こえてきた。球児たちの暑い夏が続く中、板野高校の夏が終わった。(夕刊編集部)