被爆者の体験を語り継ぐ沖西さん=広島市内

被爆者の体験を語り継ぐ沖西さん=広島市内

 悲惨な戦争体験の記憶をどう紡いでいくのか。県遺族会の「語り部事業」は、体験者の高齢化という課題に直面している。そんな中、広島市と長崎市は、被爆者の証言を引き継ぐ「被爆体験伝承者」の養成に力を入れている。

 「広島と長崎では原爆投下後、あらゆる場所で焼け残りの材木の上に死体をのせて焼いていた。中には小学生の子どもがたった一人で、きょうだいの死体を焼いたという証言もある」。長崎の被爆2世で、小中高校時代を徳島で過ごした沖西慶子さん(57)=広島市、ビオラ奏者=は静かな口調で語る。

 2016年から広島市の「被爆体験伝承者」、翌年には家族の体験を伝える長崎市の「家族証言者」になった。両市の伝承活動を兼任しているのは全国で1人だけ。広島は学徒動員中に被爆した細川浩史さん(94)の体験を、長崎は当時10歳で被爆した母素子さん(87)の体験を伝える。

 広島平和記念資料館での定時講話に加え、全国の学校などから依頼を受けて出向いている。聴講者からは「広島と長崎の両方の話を聞けるとは思ってもみなかった」との声が上がることが少なくない。

 伝承者の養成は広島市が12年度から、長崎市は14年度から始めた。広島市の被爆証言者の平均年齢は今年4月1日時点で85・9歳。伝承者の役割は一層、高まっている。

 広島市の伝承者に認定されるには3年の研修を修了しなければならない(21年度以降は2年に短縮)。1年目は被爆の実相や話法に関する座学、2年目は被爆証言者とのマッチング、3年目は原稿を作成して講話実習を行う。最終的に市や被爆者のチェックを受け、ようやく活動を始められる。

 これまでに認定されたのは1~8期生の174人で、うち27~87歳の156人が活動している。9~11期生は研修中だ。市は毎年約200万円を事業費として計上している。

 1期生の細光規江さん(58)=同市=は、他者の体験を語る難しさを指摘しつつ「その場に立って被爆者が何を思ったのかを想像し、どの言葉を使えば伝わるのか、被爆者の『心』を伝えることに重きを置いている」。2期生の沖西さんは「戦争の結果を知らなければ同じ過ちを繰り返してしまう。体験者が残してくれたものを大事に次の世代にバトンタッチしたい」と強調する。

 新型コロナウイルス禍で伝承者への講話の依頼は減っている。沖西さんの場合、コロナ禍前は月3回ほどだったが、現在はオンラインを含めても月1回ほど。それでも機会さえあれば被爆者の心の声を伝え続ける。

 「原爆は何十万人もの夢も、希望も、将来も、全部断ち切った。平和と命は何物にも代えられない大事なものであると忘れないでほしい」。

 語り部の高齢化で戦禍の記憶は風化が進み、どう次代へ紡いでいくのかが課題となっている。連載「戦後77年とくしま」の第2部は、伝承に取り組む県関係者を紹介する。