広島で原爆の惨禍に遭いながら、修復されてよみがえった「被爆ピアノ」のコンサートが9~12日、阿南市の3小学校と市役所で開かれる。元教員の美馬育子さん(73)=同市津乃峰町戎山=が、戦後70年の節目に子どもたちに平和の尊さを考えてもらおうと企画した。県内で被爆ピアノが演奏されるのは5年ぶり2回目で、学校では初めて。
3校は見能林(9日午前9時40分から)、富岡(10日午後1時40分から)、津乃峰(11日午後1時半から)。一般住民も参加できる。
広島市の調律師矢川光則さん(63)が所有者から譲り受け、コンサートに使えるように修復した被爆ピアノ5台のうちの1台が使われる。爆心地から1・8キロの民家で被爆したアップライトピアノで、持ち主にちなんで「ミサコのピアノ」と呼ばれている。
演奏は徳島市のピアニスト山本貴子さん(43)が務め、見能林と津乃峰ではベートーベンの「月光」を披露する。太平洋戦争末期、出撃前の特攻隊員が佐賀県の小学校にあったピアノで「月光」を演奏したというエピソードにちなんだ。富岡ではリストの「愛の夢第3番」を演奏する。
山本さんは「『月光』はベートーベンが耳が悪くなった時期に作られ、絶望のふちから立ち上がってくるような音楽。『愛の夢』は人間愛を描いた曲で、被爆ピアノにふさわしい」と話す。
矢川さんによる被爆ピアノの説明があるほか、児童が触れる機会を設ける。グランドピアノを使った山本さんのリサイタルもある。
美馬さんは「原爆の爆風でいくつもの傷痕を残し、それでも優しい音色を奏で続けるピアノだからこそ、子どもたちに平和への思いを伝えられるはず」と期待を込める。
12日は阿南市役所で午後0時5分から、牟岐町のピアニスト松村周作さんによる被爆ピアノコンサートがある。