14歳で初舞台に立ってから41年、義太夫節太夫の高度な体現者として認定された喜びをにじませつつ「自分の芸など、まだ入り口にも立っていない」と一層の研さんに意欲を燃やす。
「師匠からは『妥協したら終わり』と言われ続けてきた。死の直前まで命を削って芸に取り組んだ師匠の姿が目に焼き付いている」
母は三味線奏者の豊澤町子さん、亡き父は太夫部屋の代表だった北島春一さんと義太夫一家に育った。1996年から師事した義太夫三味線人間国宝の故鶴澤友路さんには、亡くなる直前まで病床から稽古をつけられた。
「一言をどう表現するか。毎日悩んでいる」と言う。義太夫節をはじめ浄瑠璃は、録音機材もない中世から親子の情や夫婦愛の物語を口伝えで紡ぎ続け、今も観客の心を揺さぶる。「到達しないからやりがいがある。一生、浄瑠璃のとりこなのだと思う」と笑う。芸に心血を注ぐ姿勢は師匠譲りだ。
徳島市の阿波十郎兵衛屋敷や、同門の淡路人形座など、国内外の公演に出演するほか、主宰する太夫部屋「友和嘉会」や義太夫教室などで後進の育成にも力を入れるが、演者も観客も高齢化が進む。「師匠や先輩がつないできた歴史を次世代へ引き継ぐのが使命。学校などへ赴いて魅力を伝えていきたい」
三味線奏者として活躍する長女の今日子さん(32)に加え、8月には孫の芽衣さん(8)が太夫として初舞台に臨む。「面白そうと思ってもらえる子どもを増やしたいですね」と目を細めた。徳島市上八万町西山で夫と長男の3人暮らし。55歳。