映画「湾生回家」の撮影の一こま。台湾を訪れた冨永さん(手前左から2人目)が古里の旧友を探し歩いた=2013年5月、花蓮県(田澤文化有限公司提供)

映画「湾生回家」の撮影の一こま。台湾を訪れた冨永さん(手前左から2人目)が古里の旧友を探し歩いた=2013年5月、花蓮県(田澤文化有限公司提供)

 日本統治時代(1895~1945年)の台湾に生まれ、戦後引き揚げた日本人9人に焦点を当てたドキュメンタリー映画「湾生回家」が完成し、台湾で公開された。台湾東部の花蓮県で生まれた移民2世の冨永勝さん(88)=北島町中村、元徳島文理大助教授=ら県人2人も出演している。台湾の田澤文化有限公司が製作し、約1カ月で約10万人の観客動員を記録した。

 タイトルは「台湾生まれの日本人の帰郷」という意味。台湾生まれの日本人「湾生」が台湾に里帰りを果たした姿を追い、故郷への愛情や人間同士の友情を浮かび上がらせた。冨永さんらは3年前から県内でインタビュー取材を受けたり、台湾を訪れたりしていた。

 冨永さんが台湾で旧友を探し歩く場面はハイライトの一つ。幼なじみ宅を訪問したものの、既に亡くなっていたことが分かり、悔し涙を流す姿が感動を呼んでいる。

 冨永さんは「日本に帰って苦労したが、いつも台湾を思いながら乗り越えてきた。映画の完成にあらためて感謝したい」と話す。

 映画は移民4世で台湾在住の作家田中実加さんが企画。日本に引き揚げた湾生に里帰りを果たしてもらうとともに、日本人移民が台湾東部の発展に果たした役割に光を当てた。

 冨永さんは今年10月13~19日に台湾を訪問。映画の封切りに合わせて、花蓮県や台北市内で行われたプレミア上映会を鑑賞した。母校がある台南市の上映会にも参加し、現地メディアに大きく取り上げられた。

 冨永さんは「映画を見たという人にたくさん声を掛けてもらい、反響の大きさに驚いた。特に若い人が歴史に関心を寄せてくれているようでうれしい。戦後70年、映画を通じて日台の絆がさらに強まることを期待する」と話した。

 映画は1時間51分。中華圏のアカデミー賞といわれる台湾金馬奨のドキュメンタリー部門にもノミネートされている。授賞式は21日に台北市内で行われ、招待を受けた冨永さんも出席する予定。