「ゲートキーパー」を知っていますか? 周囲の人の自殺の兆候に気付き、相談や支援につなげる役割を担う人のことです。新型コロナウイルス禍で自殺者が増えているというニュースを度々見ます。徳島県精神保健福祉センター所長で精神科医の石元康仁さん(59)によると、自殺防止には“緩やかなつながり”が良いそう。「ゲートキーパーにならなくても『おはよう』の一言でいいので積極的に声をかけてほしい」と呼び掛けています。9月10日~16日は自殺予防週間。コロナ禍で人との関わり方が変化する中、私たちができることを聞きました。

県精神保健福祉センターの石元所長

 

コロナで雇用や学校生活に影響 女性や若年者の自殺率増 

Q.コロナ禍で自殺者数はどう変わりましたか?

 コロナ以前は全国的に減少傾向でしたが、2020年は11年ぶりに増加しました。県内では18年の自殺者数が89人と過去最も少なくなりましたが、翌19年には113人にまで増加。20年は111人、21年は108人とわずかに減りました。全国的にも21年は微減しています。

Q.傾向としては女性が増えているんですか?

 全国の数字を見ると、女性と若年者が増えています。人口が減る中で自殺者数が増えているので、死亡自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)も上がっています。男性は12年連続で数は減少しているものの、自殺率は変わりません。もともと数全体では男性が多く、コロナ前は男性7:女性3だったのが、男性2:女性1程度に変化しています。高齢者も全体の数から見て多いです。県内では22年になってからは4、50代や有職者が増えています。

全体と男女別の自殺者数の推移(厚労省HPより)

Q.女性や若年者が多い理由はあるんでしょうか?

 コロナ禍で非正規雇用の人たちが経済的に不安を抱えたり、“ステイホーム”が推奨されて家で過ごす時間が長くなった分、女性に掛かる負担が増えたりしたのが一因ではないでしょうか。学生は学校に行けずオンラインで授業を受けたり、就活がうまくいかずに孤独を感じたりと、若い人はコロナの影響を受けやすかったと思います。

Q.県内でも自殺者増加の兆候はあったんですか?

 センターで設けている窓口「心の相談」への相談件数は17年度1603件、18年度1623件、19年度1814件でしたが、コロナ禍が始まった20年度は2236件、21年度も2463件と大きく増えました。22年度は4~6月の3カ月ですでに521件と、3年連続で年2000件を超えそうです。このうち自殺に関する相談の割合は19年度7.7%、20年度9.8%と増加。21年度6.7%と下がりましたが、本年度は11.3%にまで上がっています。

 

実は精神疾患が多い 最多要因の「健康問題」

主な自殺の要因( 厚労省HPより)

Q.自殺の原因で最も多いのが「健康問題」だそうですが、これは体の病気が主な要因ですか?

 自殺の理由は一つではなく、学校や職場、家庭事情などが複合的に絡んでいます。健康問題が最多で、この中には精神疾患も含まれます。自殺者全体の中で直前に精神疾患を患っていたのは90%、その大半がうつ状態だったとする世界保健機構(WHO)の報告があります。自殺未遂者の75%は精神障害で、うつと同様に統合失調症やアルコール・薬物依存もハイリスクだといわれています。

Q.うつの人はどういう状態なのでしょう?

 うつ病の場合、孤独感が強いです。寝付きが悪い、朝早くに目が覚めるなど不眠の症状が必ず現れます。日中ぼーっとしたり疲労感を感じたり、「死にたい」と思ったりします。学校や職場、家庭などでの「仲間外れ感」と「お荷物感」の2つが合わさると、希死念慮(自殺願望)が高まるといわれています。独居の高齢者よりも家族と同居している人の方が自殺しやすく、疎外されると家族の中でも孤独を感じてしまいます。

 

まずは「おはよう」から 何気ない会話で気付く 

県が公開している「こころのケア普及アクションプロジェクト」動画(YouTubeより)

Q.そういう人たちに気付くために「ゲートキーパー」が必要だと聞きました。ゲートキーパーってなんですか?

 家族や友人の変化に気付いて声を掛け、耳を傾け、専門家などの必要な支援につないで見守るのがゲートキーパーです。徳島県ではゲートキーパーの役割を果たす第一歩でもある「声かけ」を積極的に行うよう呼び掛けています。

Q.声かけですか。どう声をかけたらいいか分からないし、効果があるの?と思ってしまいます。

 難しく考えず、あいさつ程度でいいんです。自殺予防には“緩やかなつながり”が良いといわれています。つながりが強い方がいいのでは?と思いがちですが、そうなると逆に「迷惑掛けたらあかん」「お荷物になったらあかん」と悩みを打ち明けにくくなります。県内でも地元のつながりが強い地域では、全国的に見ても自殺率が高くなっています。適度に放っておいてくれるあいさつ程度のつながりで十分です。「おはよう」「どないしよん」「元気にしよん」と、抵抗感を感じるよりも積極的に声をかけてほしいです。空振りでもいい。気に掛けて、大きなお世話だったらそれはそれでいい。実際に声をかけてみないとどう受け取られるか分かりません。

Q.「おはよう」でいいんですね。もう少し話をする際に、気を付けたらいいことはありますか?

 最初から「最近なんか悩みないん」と聞かれても答えにくいので、まずは眠れているかどうかなど体調を先に聞いてみてください。食欲も落ちてくるので、ご飯を食べられているか確認します。それから「気分はどう?落ち込むことはない?」と気持ちを聞きます。サポートが必要だと思った場合は病院など専門機関につないでください。

 無理に聞き出そうとしないこと、「こうした方がいい」などと自分の考えを相手に押し付けないことが大事です。自分の考えと違うことを言われると人は反射的に否定してしまいますが、「死にたい」と打ち明けられても「だめだよ」と言わず、白紙の状態で話を聞いて受け止めるようにしてください。

 悩んでいる側も話を聞く側も、1人で抱え込まないことが大事です。「内緒にしてください」と言われることがありますが、専門機関につながるよう手助けしたり、学校や職場などで共有しておいた方がいい場合は「あなたのことが大事だから〇〇さんにも話しておくね」と伝えたりするといいでしょう。声をかけるだけでもいいので、できる範囲で積極的にやってみてください。

「こころのケア普及アクションプロジェクト」の動画はこちらから⇩
https://www.pref.tokushima.lg.jp/ippannokata/kenko/chiikifukushi/7206606/

ゲートキーパー養成研修の動画はこちらから⇩
https://www.pref.tokushima.lg.jp/jisatsuyobou/5038618/