島根県は東西200キロ、お国なまりも違う地域がくっついた県だ。東に出雲、西に石見、そして隠岐島。ちょうど35年前、石見を豪雨が襲った。100人を超す犠牲を出した山陰西部水害だ

 県都松江は宍道湖(しんじこ)のほとり、神話に彩られた出雲にある。転勤で松江の街に入ったのは、発生1週間後の夜だった。眼前の光景に胸が震えた。花火が打ち上がり、空と湖を照らしていた

 あの驚きは何だったんだろう。さあ被災地の取材だ、と意気込んでいたせいなのか。幸いにも被害がなかった松江の人たちが、恒例の夏祭りを楽しんで何が悪い、今はそう思う

 「同じ県のはずなのに」という感情の奥には、全県「阿波」と呼ばれる土地で育ったことがあるのかもしれない。島根だけでなく、明治維新の後、薩長新政府が足したり引いたりして生まれた県は多々ある。美濃と飛騨で岐阜、伊豆と駿河と遠江で静岡県だ

 今月上旬の豪雨災害から半月がたつ。旧山城町を中心に山あいの集落の被害は甚大だ。先祖から引き継いだ古里を守ろうと踏ん張る人々がいる。かなわず、当面の避難を余儀なくされる人がいる

 わが身に起こればと心を寄せる。それを「共感」と呼ぶのだろうが、言うは易し。自分だって心の大半を占めるのはわが身のこと。それでも言いたい。幸か不幸か、徳島はみな阿波である。